【第17話】白い巨塔の美少女

「どうだったポコ?」


「まだ少し怒ってましたが、どうにか教えてもらえました。いったん船に戻りましょう」


   *


僕とポコタンはナディの船に戻った。


「ずいぶん遅かったな。あの娘はなんでマスクなんか着けてたんだ?」


「ナディさん、問題はそこなんです。どうやらこの村には何か謎がありそうです」


さっきの少女から聞いた話をみんなに伝えると、病気が恐いから自分もマスクをするという者、ぜひ予防薬を飲みたいという者、副反応が恐いから迷っている者、そして僕のように、マスクも予防薬も意味がないと思う者など、それぞれ感想はまちまちだった。


「とりあえずポコタンは小魔獣ですから、人間の新型カーゼにかかる心配はないでしょう。病院にはミルキーさんも同行してもらいたいのですが、大丈夫ですか?」


「ええ、もちろんですわ。ただ一応、顔に布を巻いてマスク代わりにしていこうと思います」


「よかった。では3人でモディファイ病院へ向かいましょう! 他の人は、引き続き待機でお願いします」


   *


40分ほど歩いたところで、モディファイ病院らしき白い巨塔が見えてきた。

なんと5階まである、ずいぶん高い建物だ。


「着いたポコ! それにしても、こんなに歩いたのに、誰にも会わなかったポコ!」


「本当ですね。みんな素直に自宅待機のおふれを守ってるんですね」


僕たちが正門をくぐると、守衛所で額に手を当てられた。


「熱はないようですが、あなたマスクは?」


「マスクしてないとダメですか?」


「ダメです。このご時世に、マスクはあたりまえでしょう」


「マスクって感染予防効果あるんですか?」


「そんなことは知りませんが、たぶんあるでしょう。とにかく、みんなしてるんだから、しなきゃダメです」


「はあ……。じゃあ、マスクを売ってもらえますか?」


「あきれた! マスクを持ってないんですか。しょうがないですね。……はい。これが料金です」


「高! マスクってこんなに高いんですね」


僕はなけなしのお金をはたいてマスクを買って顔につけた。


「奴隷の象徴、似合いますか?」


「……。表情がわからないから、ちょっと恐いポコ」


このうえ守衛所で「院長と会いたい」なんていったら、速攻で追い返されそうな雰囲気だったので、入院患者との面会にきたということにして、先を急いだ。


病院の建物に入ると、あたりまえのように患者も医師も看護師も、みんなマスクを着用している。


「ポコもマスクしたいポコ」


「ポコタンは人間じゃないから、いらないでしょう」


「でも、みんなマスクしてるから、なんか肩身が狭くなってきたポコ」


「同調圧力ってやつですね。みんながマスクをしている理由も案外、感染予防ではなく、そっちかもしれませんね」


するとミルキーがうなずいた。


「そうですね。私も、適当な布をマスク代わりにしていますが、みんなと同じ、病院で売ってるマスクをしないといけないような気持ちになってきました」


「そうやって、またマスクがまた売れるわけですね。──謎はすべて解けました。ドクター・モディファイのところに急ぎましょう」


僕は2人と一緒に、最上階にある院長室へ向かった。


扉の前に、1人の衛兵が立っている。


「ドクター・モディファイと面会か? どちらさま?」


「僕がジーロ、こちらがミルキー、そしてポコタンです」


「残念ながら、そのような名前は聞いていない。約束のない者とは、ドクターはお会いにならない」


「そこをなんとか」


「規則だ」


「そうですか……仕方がありませんね」


僕は懐から1つの水筒を取り出した。


「なんだそれは?」


「お仕事、大変ですね。一杯いかがでしょうか?」


「任務中に酒など飲むか!」


「お酒じゃありません。もっとおいしいものです。ほら、匂いをかいでみてください」


「……。確かにうまそうな匂いだ。少なくとも、毒ではなさそうだな」


「あたりまえですよ。ちょっと味見してみてください」


「どれ……ゴクゴクゴク。……うまいな! ……ゴクゴクゴク。うまい! もう一杯くれ!」


衛兵は水筒に入ったラーメンのスープをあっというまに飲み干してしまった。


「おかわりがほしかったら、ここを通してください」


「むう……。しかたがあるまい」


僕はもう1本水筒を取り出して衛兵に渡すと、扉を開けた。


すると、いきなり場違いな子どもの声が院長室の中から響いてきた。


「こら! 入るときはノックしろと、いつもいってるだろう!」


「ポコ!?」


「えっ!?」


声の主は意外にも、十代前半ぐらいの少女だった。


「ポコ~……。ポコタン、もろ好みポコ」


しかも、ポコタンが一目惚れするほどの超絶美少女だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る