【第15話】夜のポコタン

厨房から出てきたポコタンは、なぜかとても満足げな表情だった。


「ポコタン、エロイザとの話し合いはうまくいきましたか?」


「ポコ! うまくいったポコ!」


ポコタンのうしろから、なぜか髪が乱れたエロイザが、よろよろと出てきた。


「どうしたんですか、エロイザさん? 顔が真っ赤ですが」


「あ……う……なんでも」


「ポコタン、いったいどんな話し合いを?」


「それは聞かない約束ポコ」


「そんな約束してませんが……まあ、2人とも納得したのなら、いいでしょう。じゃあ、船に戻りましょうか」


そういって屋敷を出ようとする僕たちに、エロイザが声をかけてきた。


「私も勇者パーティーに加えてもらえない?」


「エロイザさんに仲間になってもらいたいのはやまやまなのですが、さっきもいったように、僕たちは魔王を討伐しにいくのではなく──」


「わかってるけど、私もう、あの料理なしには生きていけないのよ!」


「え……」


すると、エロイザの仲間のうち1人が手を挙げた。


「エロイザが行くなら、俺たち3人も仲間に入れてくれ!」


「え……」


そんな大所帯では、目立ってしかたがない。


こちらが魔王を見つける前に、怒った魔王が攻撃してきそうな気がする。


僕が困っていると、ゲロフレアまでが名乗り出てきた。


「俺も仲間にしてくれ!」


「いや、ゲロフレアさん。あなた魔族でしょう」


「もう1日たりとも、あの料理なしでは生きていけん!」


「困りました……。ポコタン、どうしましょう?」


「じゃあ全員、荷物持ちをやってもらうポコ」


「荷物持ちですか……なるほど。そうすれば、ラーメンの食材も大量に持ち運べますね」」


すると、「ラーメンの食材持ちなら、ぜひ喜んで!」と全員納得してくれた。


「わかりました。みなさんには荷物持ちをお願いします。荷物持ちですから、基本的には戦闘には参加しないということで。あと、魔王に見つかるとやっかいですので、できるだけ目立たないようにお願いしますね」


「「「「「異議なーーーし!」」」」」


「では、船に戻りましょう!」


女性勇者たちは、ゲロフレアのいなくなった屋敷で、久しぶりの自由と休暇をしばらく楽しむという。

彼女たちに手を振りながら、僕らは船に戻った。


   *


「まあ、どうしたんですの!?」

「なんだよ、こいつら!?」


ミルキーとナディが驚くのも無理はない。

僕は屋敷であったことや、仲間が増えたいきさつなどを説明した。


「まあ、そうでしたの。こんなに仲間が増えて、心強いですね」

「魔王の手下が勇者の仲間って──大丈夫なのかよ!?」


「たぶん大丈夫でしょう。ラーメンを作れるのは僕だけですから、寝首をかかれることはないと思います。ところでナディさん、これからパント村まで送っていただいてもよろしいでしょうか?」


「お安い御用だ。パント村は海辺にあるから、歩くより船のほうが早いからな。みんな乗ってけ!」


「助かります」


こうして、新たに5人の仲間を加えた僕たちは、パント村へと出発した。


   *


数日間の船旅の間、みんなが寝静まったあとに、夜な夜なポコタンのセクハラが横行したのは、いうまでもない。


今夜もポコタンの話し声が聞こえる……ような気がするが、睡魔には勝てない。


グウ……。


「はー……ムラムラするポコ。エロイザ、エロイザ。ちょっと耳を貸すポコ」


「なによ?」


「あそこにある荷物から、ミルキーのパンツを全部持ってくるポコ」


「アホか! そんなことしないわよ! あの料理のスープは全部、ジーロが管理してるんでしょ? スープ持ってないやつに興味なし! 私はジーロとラーメンのために生きていくって決めたの!」


「ところが持ってるポコ。ほれ」


「なっ!? どうしたのそれ!?」


「長い付き合いだから、ジーロが隠しそうな場所ぐらい、見当つくポコ」


「くれ! そのスープをくれ!」


「いいポコ。早くパンツ取ってくるポコ!」


「いいけど、なんで全部盗むんだよ? さすがに大騒ぎになるぞ」


「パンツがなければ、明日のミルキーはノーパンポコ」


「変態か!」


──と、ここまで聞いて、さすがに眠気が覚めた。


「やめなさい! ポコタン! っていうか、スープを返しなさい!」


「しゅん……」


   *


そうこうしているうちに、船はパント村の港に到着した。

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