【第12話】必殺アルコールシャワー

ポコタンの体がオーラを帯びる。


次の瞬間、ゲロフレアに向かって激しいシャワーが降りそそいだ。


「さすがポコタン! 今回は水属性ですね!」


「ぐわっ……こしゃくな……!」


シャワーを浴びながら、ゲロフレアがあわてて炎を吐いた。


「無駄な抵抗です! これだけのシャワーを浴びながら火を放っても……あれ?」


ボーッ!


ゲロフレアが放った炎は消えるどころか、ポコタンが放ったシャワーに引火。


空中で小爆発が起こった。


「いったい何が起こったんでしょうか?」


「わかんないポコ」


水が燃えるわけがない。


ということは、ポコタンが放ったシャワーは水ではなく、可燃性の液体ということか。


シャワーはいまだにゲロフレアに降り注ぎ続けている。


「ゴクゴクゴクッ。ヒック。こいつは愉快な攻撃だ! わははははっ」


「ゲロフレアがシャワーを飲んで喜んでるポコ! どうしてポコ!?」


「この匂い……! これはアルコール! 水じゃなくてアルコールです!」


ゲロフレアが高笑いをしながらいった。


「俺は酒に目がなくてな。アルコールにはめっぽう強いのだ。こんな攻撃なら大歓迎だ。どんどん力が湧いてきたぞ!」


ボーーーーーッ!


ゲロフレアが凄まじい勢いで炎を吐いた。


「大変ポコ! ゲロフレアの力がむしろ強くなってるポコ!」


「ポコタン! その攻撃ストップ! ストップです!」


「ポコ!」


ようやくアルコールのシャワーが止まった。


「どうした? もう終わりか? では、こっちの攻撃の番だな。死ね!」


ゲロフレアが大きな口をガバッと開けた。


「わーっ、もうダメポコ!」


「あきらめてはいけません! ポコタン、次の攻撃を!」


「ダメポコ……。もう力が残ってないポコ! アルコールシャワーはいつもよりよけいに魔力を消費しちゃうみたいポコ!」


「なんですって!? こうなったら──」


「どうするポコ!」


「逃げましょう!」


「ポコ!?」


僕とポコタンは急いで階段を駆け上がった。


だが、1階には大勢の衛兵たちが待ち構えており、あっというまに道を塞がれてしまった。


あとを追って階段を上ってきたゲロフレアは、心なしかゼーゼーと息切れしている。


「……ふう。往生際が悪いぞ勇者! おとなしく丸焦げになれ!」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


「なんだ?」


「ここには大勢の美しい衛兵さんがいます。今、炎を吐いたら、みんな丸焦げですよ?」


「む……。それはそうだな。だが、女なんか丸焦げになっても問題ない。また新しい女を連れてくるだけだ。それに……」


「それに?」


「人間の丸焼きはうまいからな。ちょうど塩辛いものが食べたかったから、ちょうどいい」


「ひどいやつポコ!」


「塩辛いもの……?」


アルコールには強いといっていたが、階段を上ってきたとき肩で息をしていたことから考えて、おそらくゲロフレアは、かなり酔いが回っている。


「ポコタン、アルコールシャワーは非常に効果的だったようですよ」


「ポコ?」


僕は懐から、用意していた水筒をおもむろに取り出した。


「ゲロフレア! くらえ!」


そして、水筒の中身をゲロフレアの顔に浴びせかけた。


「何をする!? ──って、うま! 何コレうっっっっま!」


ゲロフレアは、長い舌で自分の顔についた液体をペロペロとなめまくっている。


「どうですか、お味は?」


「う……うまい! 絶妙な塩分とダシが、酔った体にしみわたるようだ! いったいこれは何だ!?」


「それは、ある料理に使うスープです」


「なんだと!? では、その料理を作れ! 今すぐにだ! その料理ができるまでは、おまえを生かしておいてやろう」


「わかりました。では厨房をお借りします」


=============ポコタンひとくちメモ=============

解説するポコ。アルコールを摂取すると体内からミネラルや塩分などが抜けやすくなり、それを補うために塩気のあるものがほしくなるポコ。

================================================


インスパイア系ラーメンのスープを作るには、ブータという動物の骨を数時間煮込まなければならない。

しかし僕は、こういうこともあろうかと、いつも複数の水筒にスープを入れて持ち歩いている。


「究極のインスパイアラーメン、大ダブルカラカラニンニクヤサイ増し増し、完成です!」


ゲロフレアは舌なめずりをした。


「待ちかねたぞ! おお……見たことがない料理だが、えもいわれぬ香りが食欲をそそる!」


「こってりと乳化したスープをメンにからめてお召し上がりください」


「ズルズルズル……。う、うまいっ! う……うまいっっっ!」


ゲロフレアはあっというまに完食してしまった。


「もっとだ! 勇者! おかわりを持ってこい!」

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