【第7話】お尻の小さな女の子

マドロラの両親を近所のヒーラーに任せて、僕とポコタンは再びダイカーンの屋敷へ向かった。


屋敷の前には、あの衛兵がいた。


「おまえは昨日の小僧! キサマ、また現れたのか!」


「ダイカーンに会いたいのです。中に通してください」


「通すわけがなかろう。ダイカーン様はご立腹だ」


「仕方がありません。ポコタン、この方には、ちょっとお散歩に行ってもらいましょう」


「ポコーーーーーッ」


雄叫びを上げると、ポコタンの体の周りに3つの小さな竜巻が発生した。


「おや、今回は風属性ですか」


ポコタンの技は、そのときによって何が出るかわからないのが玉にキズだが、威力の強さは折り紙つきだ。


「ポッコーーーーーッ!」


再びポコタンが叫ぶと、3つの竜巻が合体して巨大な竜巻に。

巨大な竜巻は衛兵に向かっていく。


「わーっ、なんだこれは!? うわーーーーーーーーーーーーーーーっ」


衛兵はどこかに吹き飛ばされてしまった。


「では、お邪魔しましょうか」


「ポコ」


見張りのいなくなった屋敷に、僕たちはゆうゆうと入っていった。


「ダイカーン! 出てきてください!」


「お……おまえはジーロ! 昨日はよくも……! おかげで魔王さまにこっぴどく……おっと」


あわてて口を抑えるダイカーン。


「あなたと魔王がつながっていることは、もうわかっています。しかし、昨日の仕返しのためなら、どうして僕の家を襲わないで、マドロラの家を襲ったんですか!?」


「フッ。もともとマドロラは、魔王さまに献上する予定だったのだ。村一番の美少女と聞いて、ずっと楽しみにしておられたのに、おまえが邪魔をしたのだ」


「なんだって!? じゃあ、あなたに50人以上の妻がいるというのは、まさか……」


「毎年、魔王さまに美女とカネを献上するのが俺の役目だからな。魔王さまは目が肥えておられる。候補となる女は、多ければ多いほどいいというわけだ。今、この屋敷に閉じ込めてあるのは、魔王さまのお眼鏡にかなわなかった女ばかりだ」


「聞けば聞くほど、魔王もダイカーンも、ゲスのきわみポコ」


「それで、魔王は!? 魔王とマドロラは今、どこにいるんですか!? 王宮ですか!?」


「さあねえ」


「いわないつもりですか。ならば、こちらにも考えがあります」


「フフン。昨日はラーメンとかいう料理を食べさせられて意識を失ってしまったようだが、あいにく同じ手は2度と食わん!」


「ポコタン、いけますか?」


「ポコーーーーッ」


雄叫びを上げると、ポコタンの体がバリバリバリッ、と電気を帯びた。


「今度は電気属性ですか。やっておしまいなさい」


「ポッコーーーーーーーーーッ!」


ポコタンの体から放射された電撃が、ダイカーンを襲う。


バリバリバリ、ドッカーーーーーン!


電撃を食らったダイカーンは丸焦げ……かと思いきや、焦げたのは周りの壁や床だけで、ダイカーン本人はまったくの無傷だった。


「効かんな。俺が背負っている長剣は避雷針にもなるのだ。よりによって電気属性の攻撃とは、運がなかったな!」


「むむっ。ひと筋縄ではいかないようですね。しかし、ポコタンは多彩な攻撃が持ち味です。もう一度攻撃すれば、今度こそ──」


「無理ポコ。魔力ゼロ……ポコ」


「今ので全部使っちゃったんですか!? もう、少しは残しておいてくださいよ!」


「さっき衛兵のときに、けっこう使っちゃったポコ」


「あ、そうでしたね……」


ポコタンが貯めておける魔力の容量は非常に少なく、攻撃2回分ぐらいしかない。


「どうやら俺の勝ちのようだな。死んでもらおう」


ダイカーンが背負っていた剣を抜いた。


「仕方がありませんね」


「ん……?」


僕は懐から水筒を取り出した。


「なんだそれは?」


水筒の栓を抜く。


「この匂い、覚えていませんか?」


「……! こ、この匂いは、昨日のラーメン!」


「そうです。この水筒に究極のインスパイア系ラーメンのスープが入っています」


「ポコ! ポコにくれポコ!」


「ダイカーン! 魔王の居所を白状しないと、スープを全部、ポコタンに飲ませてしまいますよ!」


「ぬぬっ……! こしゃくな小僧! そんな手に乗ると思うか!」


「ではポコタン、どうぞ」


水筒をポコタンに渡すと、すぐさまゴクゴクゴクと、うまそうにスープを飲み始めた。


「ほらほら、いいんですか? モタモタしてるとスープがなくなりますよ」


「くっ……くそっ、わかった! いう! なんでもいう!」


「ポコタン、そこまで」


僕はポコタンから水筒を取り上げた。


「ポコーッ! まだ半分以上残ってるポコ!」


「ダイカーン、魔王はどこですか!?」


僕が水筒を眼前に見せつけると、ついにダイカーンはガックリとひざまずいた。


「実は……本当に知らんのだ」


「なんですって!? このスープがいらないのですか!?」


「本当なんだ。だが、魔王さまが王宮にいないのは確かだ。信じてくれ」


「なぜですか?」


「魔王さまが王宮を支配しているのは誰でも知っている。そんな危険な場所にずっと居座っているほど、魔王さまはバカではないわい。王宮にいるのは、ただの影武者だ」


「じゃあ、本物の魔王はどこに!?」


「魔王さまの本拠地は、本当に俺も知らされていないのだ。もしかしたら、魔族の幹部なら知っているかもしれん」


「それは誰ですか!?」


「ゲロフレアだ」


「ゲロフレア!? あいつか! ……で、ゲロフレアはどこにいるんですか?」


「エチシタイン島だ」


「エチシタイン島──! よしポコタン、すぐに向かいましょう!」


「その前に、ここに閉じ込められている女の人を助けなくていいポコ?」


「そうでした! ポコタン、たまにはいいことをいいますね。ダイカーン! 今すぐ、幽閉している女性をみんな解放してください──このスープがほしいのなら!」


「ぐっ……くそう……」


こうして、屋敷に閉じ込められていた女性は全員解放された。


おそらくダイカーンの好みなのだろう、肌の露出度が高い服を身につけた50人以上の美女がずらりと並ぶと、ものすごい華やかさだ。


「ポコーッ! 魔王のお眼鏡にかなわなかったとは思えない、すごい美女ばっかりポコ!」


「ポコタンやめなさい」


「んー、この子に決めたポコ!」


ポコタンは1人の少女を指さした。


50人の中でもひときわ若い、ショートカットの女の子だった。


「決めたって、どういうことですか?」


「この子を連れていくポコ」


「連れていけるわけがないでしょう!」


すると、少女はいった。


「私でよければ、ご協力します。助けてくださったご恩返しもしたいですし」


「お気持ちはうれしいのですが、僕たちは魔王と戦う、とても危険な旅に出るんですよ」


「おそらくお力になれると思います。んんっ。ジュテーーーーーン!」


少女がポコタンに向かって叫ぶと、ポコタンの体がオーラを放った。


「ポコーッ! 魔力がよみがえったポコ!」


「ええっ!? じゃあ、きみは──」


「回復魔法の使い手、魔道士ミルキーと申します。今年で15になります」


「そうでしたか。さすがはポコタン、見る目がありますね。だから、この子を選んだんですね!」


「いや……ただ、小さめのお尻が……めちゃくちゃ好みだっただけポコ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る