【第6話】再出発

夕暮れどき。


ようやく正気に戻ったマドロラを家まで送り届けた僕は、ダイカーンに書かせた契約書をマドロラの両親に渡した。

2人は涙を流して感謝してくれた。


魔王に支配されているこの国では、高い税金を魔王に搾取されている。

そのため国民はみんな貧乏で、マドロラの両親のように借金をしないと生活できない者も少なくない。


僕たちの不幸の元凶は魔王だ。

魔王を倒さない限り、この国に幸福は訪れない。


「ポコタン、夜が明けたら出発しましょう!」


「えっ、どこへ行くポコ?」


「王宮です。魔王をやっつけましょう」


「魔王をやっつけるポコ?」


「そうです」


「誰がポコ?」


「僕です」


「ぷっ……。ぶわっはははははははははははははっ。おもしろい冗談ポコ!」


「ポコタン、笑いすぎです!」


「だって、弱虫のジーロが魔王を倒すって! おもしろすぎポコ!」


「確かに、今まではポコタンの力に頼りきりでした。でも、今の僕には、あの料理があります」


「ああ、あの激ウマの!? でも、ラーメンでどうやって魔王を倒すポコ?」


「あの料理の味には、食べた者を魅了する不思議な力があります。うまく魔王に食べさせることさえできれば、可能性はあると思います」


「うーん……。あの料理の味はすごいポコ。でも、この国をあっというまに支配したほどの魔力をもつ魔王に、食べもので立ち向かうというのが、あまりにも迫力に欠けるポコ」


「ポコタン、それをいったら、物語はここでおしまいです。迫力があろうがなかろうが、要は魔王に勝てばいいんです。違いますか?」


「まあ、それはそうポコ」


「じゃあ、僕はお父さんとお母さんに話してきます。ポコタンは旅じたくを始めていてください」


「ちょっと待つポコ。行ってもいいけど、条件があるポコ」


「あの料理なら、毎日でも食べさせてあげますよ」


「違うポコ。マドロラも連れていくポコ」


「マドロラを!? 冗談じゃありませんよ。こんな危険な旅に連れていけるわけがないでしょう」


「じゃ、行かないポコ」


「あっ、ポコタン! もしかしてエッチなことしようと考えていませんか? 毎日エロイザにやってたみたいに!」


「ギクッ。そ、そんなことないポコ! とにかく、ポコはマドロラが一緒に行かないなら、行かないポコ!」


「困りましたね。じゃあ、僕が帰るまでラーメンはおあずけですね」


「ちょ……! それは困るポコ!」


「じゃあ、どうしますか? 行くんですか? 行かないんですか?」


「……行くポコ」


「では、旅じたくをよろしくお願いします」


両親に、また旅に出たいと話したところ、今回は「おまえには無理だ」とはいわれなかった。


ただし、見合わせた2人の顔には、はっきりと「やれやれ。どうせまたすぐに帰ってくるでしょ」と書かれていたが。


   *


「では、王宮まで行ってきます!」


「悪者退治に行ってくるポコ!」


あくる朝、僕たちはあらためて魔王討伐の旅に出発した。


「そうだ、マドロラにあいさつしていきましょうか」


「賛成ポコ!」


「しばらく会えないから記念に……とかいって、スカートをめくったりしないように」


「ギクギクッ。そ、そんなことしないポコ」


「ポコタンの考えていることは、すべてお見通しです。やったら今日はラーメン抜きですよ」


「しゅん……」


マドロラの家が見えてくると、僕たちはすぐ異変に気がついた。


「ポコタン、マドロラの家が!」


「ああっ! 壊れてるポコ!」


マドロラの家は、見るも無惨に壊されていた。


もはや原型をとどめていない。


もともと人の家だったことすらわからないほど、ただの木片の山と化していた。


「マドロラ! マドロラ!」


僕たちは必死に木材をどかしながら、マドロラの姿を探した。


「ポコ! マドロラのママさんポコ!」


「こっちにはお父さまがいました!」


なんとかマドロラの両親を引きずり出すことができた。


あちこちケガをしているが、2人とも命には別状がなさそうだ。


「お父さま、お母さま! しっかりしてください。いったい何があったんですか!? マドロラは!? マドロラはどこにいるんですか!?」


2人に呼びかけると、マドロラのお母さんがうっすらと目を開けた。


「ま……魔王……が……マドロラを……」


「魔王が来たんですか!? なぜ!?」


「ダイカーンの……仕返し……」


「なんてことだ! ダイカーンは魔王の手下だったんですね!?」


声を出すのが苦しいらしく、マドロラのお母さんは小さくうなずく。


「ポコ!? でも、仕返しするなら、どうしてジーロじゃなくマドロラを連れていったポコ!?」


「これ以上、ケガをしているお母さまに話を聞くのは無理です。ポコタン、ダイカーンのところに行きましょう!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る