【第5話】対決! ダイカーン!
「あれ? ここはどこポコ?」
「やっと正気に戻りましたか。ここはダイカーンの屋敷の地下牢です」
「ポコ!? なんで捕まってるポコ!?」
「話すと長くなりますが、一言でいうと、ずばりポコタンのせいです」
「人のせいにするなポコ!」
不毛な口ゲンカをしていると、さっきとは別の衛兵が現れた。
「おい、静かにしろ!」
「衛兵さん! 僕たちはどうなるんですか?」
「それを伝えに来た。ダイカーン様は寛大なお方だ。今すぐ死刑になるか、ここで一生奴隷として働くか、どちらか好きなほうを選んでよいとの仰せだ」
「ポコ!? なにその究極の選択! どっちも地獄ポコ!」
「そうですよ! 僕たちは、ただ話し合いに来ただけなのに!」
「せめて、もう1つぐらい選択肢を増やすポコ!」
「ん? どんな選択肢だ?」
「んー……たとえば、ダイカーンの50人の奥さんの下着を洗う罰とか」
「アホか! 死ぬのか!? 奴隷になるのか!? さっさと決めんと叩ッ切るぞ!」
「は……奴隷でお願いします」
しばらくすると、僕たちは地下牢から出ることだけは許された。
でも、足かせをつけられているので、まさに奴隷だ。
衛兵にいわれるがまま、重い足かせを引きずって2階の大広間に行くと、ダイカーンがいた。
ダイカーンは噂にたがわぬ醜い容貌の魔物だった。
あなたの知っている一番醜い顔の人か動物を思い浮かべてほしい。
その顔を100万回ほど全力でパンチして腫れ上がった顔──それがダイカーンの顔だと思えば、ほぼ間違いない。
こんなバケモノに、あの美しいマドロラが嫁ぐなんて、絶対に許せない。
「ジーロとかいったな。小僧、仕事は何ができる?」
「特技は……料理ぐらいです。あの、マドロラのことなんですが……」
「ほう。では、さっそく今日の夕食を作ってみろ。まずかったら殺す。話は以上だ」
次に衛兵に連れて行かれた場所は、巨大な厨房だった。
「夕食は今から1時間後だ。すぐに取りかかれ。材料は、ここにあるものをどれでも使っていい」
*
「さてポコタン、どうしましょうか」
「やることは決まってるポコ」
「そうですね。僕も同じことを考えていました」
さすがはダイカーンの屋敷の厨房。
必要な材料はすべて揃っていた。
「できました!」
僕はできあがった例の料理──究極のインスパイア系ラーメンをダイカーンに差し出した。
「なんだこれは? ただのモヤーシの山盛りではないか! 死にたいのか!」
「よく見てください。モヤーシの下に、メンとスープが隠れています」
「メンとは何だ? なんだ、この太いヒモみたいなものは!」
「まずは、ご賞味あれ」
「そこまでいうなら食ってやろう。毒を入れても無駄だからな。わしの体には、毒消しの魔法をかけてある」
ダイカーンはスープをひと口すすった。
「う……うまい!」
続いて、メンをズルズル。
「な……なんだ、このヒモみたいな見た目に反して、絶妙な歯ごたえとまろやかな味は!?」
気がつくと、あっというまに完食していた。
「おい、おかわりをもってこい! 早く!」
ダイカーンの目はうつろだ。
狙いどおり、さっきのポコタンと同じ症状が出ている。
やはり、この料理の味には、おそるべき中毒性があるのだ。
僕はおもむろに答えた。
「残念ながら、もうありません」
「だったら、早く作れ! 今すぐだ!」
「いやです」
「な……なんだと!?」
「どうしても食べたいなら、マドロラとの婚約を破棄してください。それと、ついでに借金もチャラにしてください。もちろん、僕たちは自由にしてくださいね」
「バ……バカをいえ!」
「あの料理を食べたくないんですか?」
「ぐっ……わ、わかった。いうとおりにする」
「約束ですよ。じゃあ、ここに一筆したためてください」
ダイカーンは震える手で契約書にサインした。
婚約破棄と借金棒引きの契約書を手に入れた僕は、もう一杯ラーメンを作ってやって、すぐに屋敷をあとにした。
「ただいま! マドロラ! うまくいきました! ……マドロラ?」
吉報を聞いてマドロラが飛び出してくると思ったが、うちの中はしんと静まり返っていた。
「ポコ? この匂いは……」
居間へ進むと、テーブルに突っ伏していたマドロラが首をもたげた。
「おかへりなひゃい、ジーロ」
「マドロラ、どうしたんですか?」
「あひゃひゃ。お腹へっちゃって、ご両親が出かけている間に、こっそりスープをちょっとだけ、いただいてたのひゃ」
鍋をのぞくと、中は空になっていた。
「あのスープを飲んだんですか! しかも全部!?」
「ジーロひゃん。もっとスープくだひゃい。あたし何でもサービスしますよ。うふふ~」
マドロラは着ていた服をぱっぱと脱いで、下着姿になってしまった。
「ちょ、マドロラ! 待ってください!」
マドロラの暴走は止まらない。
僕に飛びかかってキスをしてきた。
ぶっちゅー。
「うっく!? ポコタン! 助けて!」
「ポコーッ! もっと脱ぐポコ!」
だめだこりゃ。
ラーメンおそるべし。
マドロラに押し倒されながら、僕は思った。
もしかしたら……。
この料理を使えば、もしかしたら魔王を倒すことさえも……。
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