第45話 幼馴染は触られたくない
※ ※ ※
「反省文ですか……」
今朝、【朝のうちに生徒会室に来るように、だって。
そして命令通りおとなしく向かったその場所で、昨日の事情を簡略化して説明したのちに、生徒会長さまからペナルティーを言い渡された。
……真っ新な、原稿用紙一枚とともに。
「嫌がらせをした生徒の事情聴取をして、先生方と考慮した結果、今回はそれだけで許してやることにした」
「はあ……」
清廉潔白な会長さまは今日も今日とて傲然とした態度であらせられる。酌量減軽はありがたいが。
「君は彼を殴ってはいないんだろう?」
「殴っては……ないですね。満月が止めてくれたんで」
ただ、胸倉掴んで壁に思いっきり叩きつけはしましたけど……。
「なら
「俺も?」
「件の生徒は、一週間の停学処分だ。昨日は君の上履きをカッターで切り刻む気でいたそうだからな」
「ヒエ……」
昨日の、床に凶器が散らばった光景を思い出して、キュッと胃が萎縮した。
上履きも四月に買い換えたばかりの新品だから、使いものにならなくされるとめちゃくちゃ困る。
ちゃんとあそこで捕まえてもらえてよかった……。
ストーキングと嫌がらせの罰として、一週間の停学処分が重いのか軽いのかはわからないが、しばらくあのにっくきストーカーの顔を見ずに済むならありがたいなと思う。
……それにしても、俺も反省文書かなきゃなのか。
あんまり馴染みのない原稿用紙を眺めつつ、気になることが浮かんだ。
「あの……、反省文書くのって俺だけです、よね?」
「いや。
「え!?」
「言っておくが、最大限斟酌した」
く、紅羽にまで反省文なんてもんを書かせんの……!?
あの存在するだけで称賛されるべき天使に!?
うっわ……、こんなことなら紅羽が犯人に画鋲ケース投げつける前に止めてやればよかった!!
いや、目にも留まらない速さでぶん投げてたから、正直止めようがなかったんだけど……!
無意味な罪悪感に苛まれてかなりショックを受けていると、ふいに横から伸びてきた手に、すいっと原稿用紙を奪われた。
「
一緒に生徒会室まで来てくれた満月が、原稿用紙に目を落としながら言う。
「え、うん……。マジでなに書けばいいのコレ」
「さあ……。反省してますって書けば。実際反省するべきなのはヤマキタなんだけど」
「それな」
「結局ヤマキタから謝られてないでしょ、陽富も
「まあでも、謝罪だけで勝手に許された気になられてもやだし……。同じクラスだけど極力ヤマキタとは関わらないようにしていきたいかな」
「それがいいと思う。あたしももうヤマキタ視界に入れたくないし」
「……さっきから、ふたりとも」
満月と神妙に話していたら、黙って聞いていた会長が、心底呆れかえった声で横槍を入れてきた。
さっきから……?
不思議に思って満月と一緒にそちらを見れば、なぜか会長は神経を疑うとでもいうかのような、険のある表情を俺たちに向けた。
「彼はヤマキタじゃなくて、ヤマシタだ」
「「……………………」」
……すみませんでした……。
※ ※ ※
生徒会室をあとにして教室へ向かう道中、やたらと視線を感じた。
はじめは隣の満月が注目されているのかと思った。
ずっと見てきた幼馴染ということもあり、ついついスルーしがちだが、満月は雑誌のモデルをやっていてもおかしくないほど容姿端麗かつ、美人特有の圧倒的なオーラがある。
一六五センチを超すスラリとした身長に、ブレザー越しでもわかるほどのスタイルの良さだ。
顔のパーツも肌のキメも整っていて小顔だし、堂々とした立ち振る舞いと意志の強そうな大きな瞳から、自信のある美人というようなイメージを受ける。
それでいて、校内でよくお菓子をもぐもぐしているギャップが、かなり可愛かったりする。
……んだと、思う、おそらく。
あまり客観的に見られないというか、俺にとって満月は、満月でしかない。
しかしながら……、どうもさっきから目を向けられているのは、俺な気がする。
「なあ、なんか俺見られてる……? 自意識過剰?」
「昨日のことが噂にでもなってるんじゃない? なにせ教室で一年のクール美少女とデートすること高らかに公言してたんだし」
「あ、あれは満月が指示しっ……いや、考えたのは紅羽なんだっけ……。だいぶ恥ずかしかったんですけど、あれ……」
「デートの翌日に違う女と一緒にいるとか反感買うかもね。離れて歩くか」
「えっ、ちょっ……!」
俺から合わせていた歩くペースを、満月がしれっとずらす。
そのままスタスタ遠ざかっていこうとするから、俺は思わずその肩を掴んで、引き留めていた。
すると満月は意表を突かれた顔でこちらを振り返り、一秒後にはジト目で睨んできた。
「寂しがり屋かよ」
「ち、違くて……!! 反射的に!!」
自分の行動と満月の台詞に、顔が急激に熱帯びた。
どんな言い訳だよと思うが本当に、衝動的に引き留めていたのだ。
つまりは、満月の言う通りなのかもしれない。勢いで否定してしまったが。
「あんま触んないで」
そんな俺に反し、満月は肩にのせられた手をすげなく払い、再びスタスタ歩いていって目の前のD組の教室に入ってしまった。
いや……そうだよな、元彼がつけあがって触ってくるとか、ふつうにめちゃくちゃキモすぎる。
以前のように話してくれるようになったからって、調子にのりすぎだ……。
満月の塩対応が順当だからこそ、グッサリとくる。
猛省し、ゆっくり満月のあとを追って教室に入った俺は、……そこでも注目の的となることになった。
俺が教室に足を踏み入れた瞬間、一斉にクラスメイトたちの顔がこちらを向いたのだ。
さすがに、自意識過剰じゃない。
それは険悪な──とまではいかないが、確実になにかよくないものを含んだ、外野の目だった。
「……………………」
満月も、見るとすぐそばで立ち止まっていた。
教室内のおかしな空気を感知したようで、俺の様子を窺うように目配せしてくる。
そして教卓の近くでは、
「陽富……っ、おまっ、お前、なんつーことやらかしてんだよ!?」
時雨は俺に気づくなり慌てたようにこちらに詰め寄り、開口一番、顔面蒼白で非難してきた。
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