第63話 おっさん、料理を仕込む。
再び一階に戻ったら、キッチンにて準備を始める。
幸い、魔石によってガスや水道も通っているし、冷蔵庫なども完備してあった。
これなら、すぐにでも店を始められるくらいに。
そしてクレアさんと、軽く打ち合わせをする。
「これならすぐにでも始められそうなので、夕飯に皆を呼ぶのはどうでしょうか? できれば、お世話になった方々にお礼がしたいのですが……」
「なるほど、それは良い手かもしれない。それなら、この店が復活したというアピールにもなる」
「あっ、良いですね。今回は知り合いだけで、今後は店としてやりますよってことで看板を作ったり」
「うむ、そうするとスムーズに進みそうだ。そうなると、何から始める? 私で良ければ手伝おう。恥ずかしながら、料理は手伝えそうにないが」
「いえ、クレアさんに……いえ、ではお願いします」
手伝わせるのは悪いと言おうとしたが、何とか思い留まる。
多分、そういうのが失礼になってしまう。
それくらいの関係性は築けているし。
「ふふ、わかってきたじゃないか。それで、何をしたら良い?」
「それでは……まずはミレーユさんとソラに説明をお願いできますか? そのあとはソラを店に、クレアさんは私の知り合いの方々にお声掛けをして頂けると助かります」
「うむ、お安い御用だ。では、私は一度宿に戻るとしよう。そのあとは、私の方でやっておく」
「はい、よろしくお願いします。その間に、俺は夕飯の支度をしときますね。買い物ついでに、昼食も適当に買ってきますか」
「決まりだな。では、早速行動するとしよう」
そうと決めた俺達は、店の外に出て別行動をとるのだった。
そのまま俺は、商店街に向かい買い物をしていく。
メインの肉はあるから、あとは汁物とサラダがあれば良い。
手早く済ませたら、屋台で買ったうどんを買って店に戻る。
すると、そこには既にソラとミレーユさんが立っていた。
「お父さん! ここが新しいお家!?」
「まあ、一応そうなる予定ではある」
「なにやら、一気に話が進んだみたいですね」
「ええ、そうみたいで。とりあえず、二人共中に入りましょう」
興奮するソラを宥めつつ、店内に入ると……。
「わぁ……! 広いねっ!」
「だろ? テーブルもあるが、ぎっちりというわけもないし」
「あら、中々良いお店ですね。なるほど、スペース的にもこれなら平気そうです」
「そう言ってもらえて良かった。それじゃあ、まずは軽く食べましょう。食べ終わったら、お二人にはお掃除をお願いできますか?」
「うんっ! 頑張るっ!」
「はい、任せてください」
「ありがとうございます」
その後手早くうどんを食べて、俺は自分の作業に集中する。
「まずはシンプルが一番だろう」
解体されたワイバーン肉を、さらに食べやすい大きさに切っていく。
それを森でとったパイナップルに漬ける。
こうすることによってブロメラインという成分が、肉を硬くする要素であるタンパク質を分解してくれる。
「別に前に使った椎茸でも良かったけど、こっちの方が甘みも出るにいいだろう。椎茸は、味噌汁の方に使うとするか」
普通は十五分くらいでもいいが、今回はかなり長く漬けることにした。
大体、四時間くらいは漬けたいところだ。
そうすれば、トロトロの食感になるはず。
「次にポットのお湯を沸かして……うん、それにしてもコンロが三つあるのは助かるな」
二十人くらいの料理なら、俺一人でどうでもなる。
幸い、今の俺の体力は半端ないし。
以前は……うん、四十肩とかで悩まされていたけど。
「よし、今のうちに千切りキャベツを用意するか」
包丁でキャベツを切ると、タタタッと心地いい音が耳に入る。
やはり、戦いよりこっちの方が良い。
もちろん、美味いモノを食べるために戦うのは吝かではないが。
「お湯が湧いたら、ワイバーンの骨に注いで……」
ワイバーンの切れ端と骨を鍋に入れ、弱火で煮込む。
これで、美味い出汁が取れるだろう。
「あとは食べる直前に、キャベツの千切りにお湯を注いで……あれってシャキシャキ感が残りつつ、いくらでも食えるんだよなぁ」
その後は買ってきた食材を使って漬物を用意したり、具材だけを先に切っておく。
そこまでやったら、あとは待つ。
「ソーマさん、こっちもひとまず終わりました」
「お父さん! 綺麗になったよ!」
「おお、ありがとな」
元々綺麗だったからか、すんなりと終わったようだ。
ひとまずテーブルについて、休憩を挟むことにする。
「それで、この家に住んで良いとか……」
「ええ、ミレーユさんが良ければ」
「私としては問題ないですよ。ソラちゃんとも、いられますし」
「えへへ、わたしも嬉しいっ!」
「それでは、引き続きよろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ」
二人には迷惑をかけたくなかったが……それは俺のエゴでもあるな。
ソラが喜んでいるし、これで良かったのだろう。
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