第55話 ブライ視点

 ……クク、今頃焦っているだろうな。


 干し肉を口に含みつつ、獣人の娘を眺める。


「……すぅ……」


「呑気に寝てやがるな。これではつまらん」


「す、すいやせん、少し薬が効きすぎました。流石に街中で叫ばれたら面倒だったんで……意外と、クレアの奴が抵抗激しかったですし」


「まあ、いいだろう」


 サザには獣人の娘を攫うように手配した。

 その方法を問わなかったが、どうやら眠りの葉を使った薬を使ったらしい。

 獣人は鼻が効くというし、普通より効くのかもしれん。


「無理矢理起こしますかね?」


「それでは死んでしまうだろうが。恐怖に染まる顔を見ながら殺すのが良いんじゃねえか」


「へ、へへ、相変わらずっすね」


「なに、まだ時間はある。クレアがどうなったか知らんが、奴が宿に戻ってからここに来るまで……最低でも1日以上はかかる」


 俺は道を知ってるし罠もわかるが、奴は地下五階までしかきたことないはずだ。

 だったら、くるのは明日の夜明け以降だろう。


「へへ、そうっすね。それより、どうしてこんな真似を?」


「ああん?」


「い、いや……ブライさんが相手にするような奴じゃないかなと。結構、問題になるかもしれないですし」


「平気だろ。獣人と、あんなおっさんが一人いなくなったくらいで。俺はA級冒険者だぞ? 何か言われたところで、揉み消せばいい」


 そうだ、俺はA級冒険者だ。

 強いし、何をしても許される。

 なのに、あのクソ依頼主共が……いちいち、文句を言いやがって。

 この俺が依頼を受けてやったんだから有り難く思え。

 まあ、帰りにワイバーンの巣で暴れたから少しは溜飲が下がったが。

 一匹逃してしまったが、まあ良いだろう。


「へ、へへ、そうっすね」


「ただ、腹が立ってるのは事実だ。前も言ったが、依頼を受けたが良いが文句を言われたしな。何より、奴は気に食わん。強いくせに、偉そうにしないことが」


「本当に強いんすか?」


「ああ、俺ほどではないにしても。獣人にも優しく、人々から人気がある……気に食わねえ。あいつの眼の前で、こいつの死体を晒して……化けの皮を剥がしてやる」


 そうすれば、あいつも俺と戦わざるを得まい。

 ……楽しい勝負になりそうだ。

 俺に勝てないまでも、良い勝負をしてくれるだろう。


「へへ、そいつは良いや。それじゃあ、こいつが起きたらやっちまいますか」


「ああ、時間はまだたっぷりある。あと一、二時間は余裕だろう」


 ……さあ、奴は今頃必至に向かっているだろうな。


 しかし、それが間に合うことはない。


 くく、奴の顔が絶望に染まるのが楽しみだ。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る