第56話 おっさん、テンプレしない
……なるほど。
ひとまず、焦る心配は無くなったか。
急いてはことを仕損じるともいうし、ここは冷静になれ。
まさか、あいつらも……俺が既に近くにいるとは思っていまい。
そして、あいつらの会話をこっそり聞いていることも。
俺ははやる気持ちを抑え込み、クレアさんの元に戻るのだった。
安全地帯から少し離れ、無事に合流する。
離れたのは俺一人なら気配も消せるし、聴覚に集中すれば遠くまで聞こえるからだ。
「どうだった?」
「ひとまず、ソラは無事です。どうやら、起きてから痛めつけないとつまらないとか……」
クレアさんに、聞いた話を簡潔に説明する。
すると……血が沸騰しそうになるが、精神で押さえ込む。
そんなことをさせてたまるものか。
「っ……」
「あっ、す、すみません」
「い、いや、無理もない。しかし、それは抑えないと相手に気づかれるぞ?」
「はい、分かってます」
「それにしても無傷なのは良かった。しかし、私がきた意味はなかったか。いや、いいことだな」
「そんなことありませんよ。クレアさんの道案内がなければ、もっと時間がかかったはずですから。何より、クレアさんがいるおかげで冷静になれます」
「そ、そうか、それで冷静なのか」
……どうやら、自分ではわからないが怖い顔をしてるっぽい。
いかんいかん、おじさんにも散々言われただろ。
怒りは何もかもを曇らせると。
「はい、これでも頑張ってます」
「うむ……それで、この先はどうする? 安全地帯にどのようにいた?」
「広い空間の真ん中辺りに、キャンプを立てて陣取っていましたね。ブライが少し離れた位置に座っていて、ソラの近くにはザザとかいう男らしき奴がいました」
「なるほど……戦うとしても、広いし魔物も来ないのであの場所が良いだろう。あとは、如何に隙をついてソラを救出するか」
「ええ、そこです。幸い、まだソラは寝ています。できれば、起きる前に終わらせたいですね」
よく見た小説などでは盾にとられてピンチになったり、相手が助けを求めるシーンなどがあった。
しかし、怖い思いは出来るだけしないに越したことはない。
テンプレなど知ったことか、そんなものはクソ喰らえだ。
「ふむ、それが一番だな。私は何を手伝えば良い? 使えるのは水の玉や、水の波や壁くらいだが……」
「ありがとうございます。それは射程はありますか?」
「そうだな……ソラに回復魔法を使う必要は無くなったし、ソーマ殿のおかげで魔力は満タンに近い。最低でも十メール以上は出せるはずだ」
「わかりました、少し考えてみます」
俺達は連携プレーをしたことがない。
こういう時は下手に小細工をすると失敗する恐れがある。
そうなると、作戦はシンプルに……そして、クレアさん自身に危険がいかないように。
クレアさんを人質にでも取られたら目を当てられない。
「あとは、あいつらの能力とかはわかりますか?」
「ああ、有名な二人だからな。ブライの方は、見た目通り物理タイプの戦士だ。その物凄い力で、大剣を振り回して敵を粉砕する。ステータスもソーマ殿と、そこまで差はないはずだ。油断していると、危ないかもしれん」
「なるほど……近接のパワータイプか。油断ですが、そこは安心してください。どんな相手だろうと、油断だけはするなと教わっているので」
そこはおじさんに叩き込まれている。
三分間という剣道の試合に置いて、一瞬の油断が勝負を決めるからな。
「ふむ、ソーマ殿なら安心か。ザザだが、ある意味であいつの方が厄介だ。風の魔法使いで、脚にまとって速さをあげたり。音や気配に敏感だし、遠距離攻撃もある」
「なるほど……決まりました、ここは単純に行きましょう。クレアさんには魔法を使ってもらいます」
「うむ、それが良いだろう。私とて足手まといにはなりたくないからな」
そして、手短に作戦を説明する。
もちろん、作戦と呼べるような内容ではないが……俺としては一瞬の隙さえあれば良い。
ソラ……お前が眼を覚ます前に終わらせるから安心すると良い。
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