第53話 おっさん、憤る

 ギルドに到着した俺は、まずは解体屋に預け……。


 その後、受付でアリスさんにワイバーンのことを説明する。


 すると、すぐにギルドマスターてあるハウゼン殿の部屋に通された。


「ソーマ殿、休みだったろうにすまんな」


「いえ、きちんと説明した方がいいですから」


「うむ、俺も気になる点があったのでな……もう一度、最初から説明をしてくれるか?」


「はい……といっても、わかることは少ないですけど」


 森の中を散策中に、突然ワイバーンに出会ったこと。

 単独行動で好戦的だったことなどを説明する。


「ふむ…」


「それ自体が、クレアさんは珍しいと言ってましたね」


「それもそうだが……変だな」


「えっ? 何が変なのですか?」


「ワイバーンはそれなりに知能が高い。おそらく、お主の強さもわかったはず。自らの縄張りに入ったら別だが、野良のワイバーンが襲うのは変な気がしてな……他に何か変わった点はなかったか?」


 ……変わった点……うん? そういえば……。


「結構、森の奥まで行ったのですが……魔物や魔獣に会わなかったですね。クレアさんも不思議に思ってましたけど」


「……もしや、ワイバーンに駆逐された? あそこを新たな縄張りにしようとした? そのためには邪魔者を排除……そのためにソーマ殿に戦いを挑んだ……気が立っていた……元いた場所を追い出された? 故に、あんなところにいた……」


「えっと……つまり追い出されたワイバーンが、あそこに逃げてきた。そして、新しい巣を作ろうとして……そこへ、俺がきたという感じですか?」


「あくまでも推測の域でしかないが……ふむ、詳しい調査が必要だな。ソーマ殿、感謝する。お主がいなければ、無用な被害が出るところだった」


「いえいえ、たまたまですから。無駄に被害が出る前で良かったです」


「……本当に、お主のような者ばかりだったら良かったのだが……」


 俺がその言葉に疑問を問いかけようとすると……勢いよく扉が開かれる!


 そこには、血相を変えたアリスさんがいた。


「マ、マスター! ソーマさん!」


「アリスさん?」


「むっ? ……何があった?」


「はいっ! とにかく、二人共表に来てください!」


 俺とハウゼンさんは頷き、急いで部屋を飛び出すのだった。

 そして、裏側から受付の方の向かうと……そこには、傷だらけのクレアさんがいた。

 あちこちから血が出て、服も破れたりしている。


「クレアさん!?」


「す、すまん、ソーマ殿……私がいながら」


「何があったのです?」


「……ソラが拐われてしまった」


「……誰にですか? 何処にいるかわかりますか?」


 その言葉を聞いた瞬間、全身の血が沸騰するような感覚に襲われるが……なんとか平静を装って言葉を絞り出す。


「ザザという男だ……おそらく、後ろにはブライがいる。あいつのコバンザメのような男だ。場所は迷宮の中だ……追いかけて行った宿に入り口にこれが貼ってあった」


 そこには、獣人の小娘は預かった。

 返して欲しくば、地下10階の迷宮のボス部屋まで来い。

そこには安全地帯がある。

 今日中に来なければ、娘の命はない。


「……これは……」


「ふざけた話だ……ソーマ殿はまだワープができないというのに」


「そもそも、人攫いをしておいて……」


 すると、ハウゼン殿が俺の肩に手を置く。


「ソーマ殿には言いにくいが、それが獣人の扱いだ。無論、俺は好きではないが。そして、迷宮はある意味で無法地帯だ。そこに入った者、起きたことは責任が取れん」


「……わかりました。とにかく、今すぐに迷宮に行ってきます」


「いや、流石に問題だ。なので、こちらでも編成を組んで……」


「それでは遅いのです!! ……失礼しました、とにかく行ってきます」


 立ち上がろうとすると、クレアさんに洋服を掴まれる。


「ま、待ってくれ! せめて、私を連れて行ってくれ!」


「ですが、怪我を……あっ」


 よく見ると、傷が塞がってきていた。

 そういえば、回復魔法を使えるとか。


「ふふ、私が水魔法使いだと忘れてたか? 先程は治す暇もなくきたが、時間があればこの通りだ」


「しかし、これ以上ご迷惑を……」


 そもそも、俺が彼女に甘えすぎていた。

 そして、ソラに対する認識も甘かった。

 二人は、俺に散々気をつけてと言っていたのに。

 これは、俺の甘さが招いたことだ。


「何を言うか。これは私の責任でもある……何より、私なら地下10階までなら案内できる。それに、ソラが怪我をしていたなら癒すことができるぞ」


「それは……」


「さあ! いくぞ!」


「ははっ! あとは俺に任せとけ! ほら、行ってこい」


「……はいっ! では、失礼します!」


「ひぁ!?」


「急ぎますからね——それでは!」


 俺はクレアさんをお姫様抱っこして、ギルドを飛び出すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る