第52話 おっさん、甘く見ていた

 馬にワイバーン乗らないので、俺が担いだまま持っていくことにする。


 馬にはクレアさんとソラに乗ってもらい、都市まで帰ることに。


 ちなみに、ソラは疲れて寝てしまっている。


「やれやれ、ワイバーンに出会うとか」


「皆さんも驚いてましたね」


 キャンプにいた人達も、こんなところにワイバーンがいるのは初めてだと言っていた。

 それこそ、在住しているベテランの方も。

 ということは、かなりイレギュラーなことなのだろう。


「まったく、ソーマ殿に会ってから驚いてばかりだ」


「す、すみません」


「い、いや、悪い意味ではない。色々と考えされらることも多い」


「そうなんですか?」


「ああ、私とて獣人に偏見を持っていたわけではないが……いや、嘘だな。こうしてソラと接してわかった……そんなつもりはなくても偏見を持っていたと」


 そう言い、自分に寄りかかるソラの頭を撫でる。


「むにゃ……」


「ふふ、可愛いではないか。以前の私だったら、そこまでは思わなかっただろう」


「それは仕方ないかと」


「そう言ってくれると助かる」


 誰もが皆、経験してないとわからないことが多い。

 そんなつもりはなくても、相手を傷つけることもある。

 まずは、お互いに知っていくことだ。





 その後、時間をかけて都市に到着する。


「ふぅ、なんとか着きましたね」


「ソーマ殿は、まずは解体屋に持っていかないと」


「ええ、そうですね。クレアさん、悪いのですがソラを宿に送ってくれますか? 解体もそうですが、説明をするので結構時間がかかるかと」


 ちらっとソラを見ると、穏やかな表情で寝ている。

 すっかり、クレアさんにも懐いたようだ。


「……スヤァ……」


「うむ、熟睡しているな。しかし、説明するなら私も行った方がいいのでは?」


「いえ、その格好ですし。ソラを抱っこしっぱなしではきついですから」


「むっ……確かに変な輩に絡まれても困るな。わかった、先に宿に帰るとしよう」


「お願いします」


 入り口でクレアさん別れ、俺はワイバーンを担いだまま歩くのだった。


 ……めちゃくちゃ目立って恥ずかしい思いをしながら。


 やっぱり、ついてきてもらえばよかったかもしれない。







 ◇


 ……全く、本当に飽きない男だ。


 色々な方法で料理を美味しくしたり、強い割りに抜けてるところがあったり。


 それでいて、ここぞという時には決める。


 洋服を褒めてくれたり、女性扱いしてくれたり……うん、良い男だな。


 何より、皆に優しい……あれだけの強さを持ちながら稀有なことだ。


 自由恋愛をしてはいけない私が、思わず心惹かれるくらいに。


「むにゃ……」


「ふふ、お前は運がいいんだぞ? あんなに良い男は、そうはいない」


「……えへへ」


 この子の笑顔を見てれば、私達のいない所でもどういう風に接しているのかわかる。

 この笑顔は、きちんと愛情を注いでいる証拠だ。


「きっと、良い父親になるだろう……って何を言ってるんだか」


「……お父さん……」


「……さて、帰るとするか」


 そして、宿へ向かう路地に入ると……何やら、妙な男達に囲まれた。


「……何か用か?」


「へへ」


「良い女だぜ」


「獣人なんかに構ってないで、俺達と遊ぼうぜ」


 相手は武器を持った三人……ソラを抱えたまま、ここから走って宿に行くには遠すぎるか。

 できれば、この手で倒してやりたいが……。

 私の誇りなど気にせず、まずはソラの安全が最優先……ならば!


「誰かっ! 暴漢が現れたっ! 助けてくれっ!」


「ふぇ?」


「ソラ、大丈夫だ……ん?」


 おかしい……裏路地とはいえ、家もあるし住人もいる。

 何より、表に聞こえる声量だったはず。


「残念だったな」


「この辺りは風の結界に包まれているぜ」


「……何者の指示だ?」


 風の結界、それは風の中級魔法だ。

 任意の場所の近くを、音を一切通さなくなる。

 密談に使ったり、隠れたりするときに使うが……こういう時にも使われる。

しかし、これを使えるとなると……ただのゴロツキではない。


「へへ、それを知る必要はないぜ」


「クレアさん……? この人達は……?」


「ソラ、すまない。だが、なんとかしてみよう」


 壁際にソラを置き、守るようにその前に立つ。


 ここで守れなければ、ソーマ殿に会わす顔がない。









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