第51話 おっさん、ワイバーンを狩る

 さて、刀を構えたが……ここからどうするかが問題だ。


 相手は飛んでおり、地上からでは攻撃は届かない。


 ジャンプすれば届くかもしれないが……隙がでかく、カウンターを食らう恐れがある。


 俺自身がダメージを負うことは構わないが、その隙に後ろの二人を狙われてはいけない。


「そうなると……」


「ソーマ殿! くるぞっ! そいつが風の竜、または緑竜と呼ばれる所以の技が!」


「ほう?」


 ワイバーンを見ると、なにやらお腹が膨らみ……体と同じ緑色の玉が吐き出される!

 その大きさはバスケットボール並みだ!


「グァァ!」


「よっと……中々速いな。そして、威力も高いと」


 俺が避けた場所には、小さな穴が出来ていた。


「気をつけろ! 次々くるぞ!」


「ええっ!」


 クレアさんのいう通り、次々と風の玉が吐き出される!

 俺は左右にステップをすることで、それを躱していく。


「お父さん!」


「問題ない! クレアさん! こいつのコレは無限ですか!?」


「いや、そんなことはない! ただ、まだ余力はあると思って良い! 普通なら弓使いや魔法使いで、倒したり怯ませたりするのがセオリーなのだが……すまん、私もこんな格好でなければ。せめて、槍だけでも持って来れば良かった」



「いえ、お気になさらずに。大丈夫です、すぐに片付けます」


 おそらく、倒すこと自体は問題ない。

 あとは、ソラのためにもいかに早く倒すかだ。

 弱い者から狙ったり、空から風の玉を打ってくるということは、頭は悪くなさそう。

 そうなると……挑発するしかないか。


「グァァ!」


「よっと……それでいくか」


 俺は鞘から手を離し、両手をぶらんとさせて棒立ちする。

 更には目を閉じ、自分を無防備な状態にする。


「ソーマ殿!?」


「平気です……よっと」


 目を閉じてても、風の玉は音でわかる。

 なので、避けるのは容易い。


「グカァァァァァ!!」


「くっ!?」


「ひぃ!?」


「どうした? 言っておくが、いくら放っても当たることはないぞ?」


「グ——シャャャャ!!」


 ワイバーンの顔つきが変わり、目が大きく見開く。

 そして、俺を食らおうと急降下してくる。

 どうやら、理性を無くしたらしい。

 俺は脱力した状態から、素早く居合の構えを取る。


「所詮は獣か——シッ!」


「グカ? ……カ、カ……」


 迫り来る首にカウンターを決める。

 すると、頭と胴体が別れ……地に伏せた。

 ガラン殿の刀が良いのか、血一つ付いていない。


「ふぅ、これでよし」


「お父さん! すごい!」


「まあ、上手くいって良かった」


 刀を仕舞い、飛びついてくるソラを抱き上げる。


 「さて、ただ殺してしまいましたね。さすがに、処理をしないとまずいですよね?」


「ああ、そうだな。待て、首だけならどうにかなる。火の魔石があったな……これでよしと」


 クレアさんが荷物から魔石を取り出し、首の部分をバーナーの炎のように炙ってくれた。

 これなら、しばらく血が漏れ出すこともない。

 何より、保存方法としても悪くない。


「ありがとうございます」


「いや、これくらいはな。戦いを全て任してしまったし」


「いえいえ、せっかくの可愛いワンピースが汚れたらいけませんから」


 ひとまずソラを下ろし、ワイバーンを担ぐ。

 流石に大きすぎて、引きずるような形になってしまう。


「か、可愛い……女の子扱い……」


「クレアお姉ちゃん? お顔真っ赤だよ?」


「き、気のせいだっ! と、とにかく……一度、都市に戻ろう。このことは、ギルドマスターと領主に報告せねばなるまい」


「わかりました。それでは、戻るとしましょう。ソラ、また来くるか?」


「うんっ! 楽しかったっ!」


 危険な目にはあったが、どうやら楽しんでくれたらしい。


 まあ、この世界に完全に安全な場所などない。


 この子のために俺ができることは、それを排除することくらいだな。



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