第50話 おっさん、センチメンタルな気分になるが……

 走り回るソラを見てると、居なくなった妹のことを思い出す。


 丁度、今のソラの歳くらいだった……あの子が、事故で亡くなったのは。


 結局、俺の両親が離婚したのもそれが大きい。


 だから、俺はそこまで両親を恨んではいない。


 ただ、悲しかっただけだ。


 自分では、二人を繋ぎ止める者にはなれなかったことを。


 そして、それ以来大事な人を作るのが怖くなった。


「いい歳こいて……困ったもんだ。気がつけば、こんなことになってるし」


「お父さーん! なんか果物ある!」


「ソーマ殿! 何をぼけっとしているのだ!」


「すみません!」


 ひとまず雑念を振り払い、俺は二人の元に駆け寄るのだった。






 その後、散歩しながらバナナやパイナップルなどを採取する。


途中で休憩し、用意したサンドウィッチを食べて再び散策していると……何かの気配を感じとった。


「むっ? 何かきますね。ソラ、俺の後ろに」


「う、うんっ!」


「なに? この辺りは狩り尽くされているはずだが……」


 ……この音と気配……上かっ!

 気配の元を辿り、空を見上げると……何かが近づいてくるのが見えた。


「上から来ます! ……なんだあれ? ドラゴン?」


「上からかっ! いや……あれはワイバーンだっ! しかし、なんでこんなところに?」


「お、おっきいよぉ……」


「グァァ!」


 ソラの言う通り、そいつは大きい。

 背丈も三メートルほど、翼を広げたら倍の六メートル以上はありそうだ。

 身体自体は細く顔はドラゴン近いが、プテラノドンに近い姿をしている。

 そいつは空から俺達を見下ろし、何やら様子を伺っている。


「珍しいのですか?」


「あ、当たり前だっ! ドラゴンではないとはいえC級上位に当たる魔獣だ! 群になるとB級にもなる! しかし、どうしてこんなところに……しかも、群れではなく一人きりで?」


「なるほど……イレギュラーということですね」


「う、うむ……単独行動することは少ないし、こんな場所にいる魔獣ではないはずだ」


「お、お父さん……」


 俺の服の端を掴むソラの手が震えている。

 おそらく、ドラゴンに食べられそうになったことを思い出してしまったのだろう。


「ソラ、安心するといい。あんなドラゴンもどきは、お父さんが倒してやるから」


「う、うん……」


「おいおい、そんな簡単に……いや、忘れそうになるがそうだったな。私も役立たずではダメだな……よし、ソラのこと任せてくれ」


「いえ、それで十分です。ソラ、クレアさんのところに」


 こくんと頷き、クレアさんの元に駆けていく。

 すると、ワイバーンがソラに視線を向けて動き出す!


「ギシャャャャ!!」


「くっ!?」


「ひぃ!?」


 その咆哮は、ソラとクレアさんを震え上がらせた。

 おそらく、前の俺だったら同じようになっていただろう。

 俺は思い切り息を吸い……同じように吠える!


「オォォォォ!!」


「ギシャ!?」


「いまのうちに!」


 その声に反応し、ワイバーンが怯む。

 その間に、ソラがクレアさんの後ろに隠れる。


「よし、これで良い」


「ソーマ殿! 気をつけろ! そいつは風のブレスを放ってくる!」


「ありがとうございます! ところで、さっき……こいつはだと言いましたか?」


 俺が気になったのはそこだ。

 ドラゴンは食えなかったが、こいつは食えるってことだ。

 料理人としては、未知の味というのは見逃せない。


「うん? あ、ああ、ワイバーンは魔獣だぞ。ドラゴンと似ているが、全く別の生き物だ」


「美味しいですか?」


「はい? ……はぁ、そういう方だったな。いや、残念ながら肉は硬くて食えたもんじゃない。強さの割に採算が合わないから、不人気の魔獣と言われている。まあ、卵は人気なので依頼が出ることはあるが」


「硬くて食えないですか……なら、料理人の腕の見せ所ですね」


「全く、頼りになるというか呆れるというか……だが、それがソーマ殿だな」


「ええ、俺は料理人ですから」


 左手を刀の鞘に添え、腰を深く落とす。


 さあ、可愛い娘を怖がらせたことは万死に値する。


 罰として、俺の料理の素材になってもらおうか。















 ~あとがき~


 念のため……妹の描写ですが、二十三話に書いてあります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る