第49話 おっさん、のんびりする
軽装に着替えたら、三人で宿を出る。
「しかし、良いのか? 私は、こんな格好だが……」
「ええ、いいと思います。俺が守るので安心してください」
「う、うむ」
クレアさんの格好は白のワンピースに、麦わら帽子をかぶっている。
その西洋美女の姿と相まって、まるで一枚の絵みたいに綺麗だ。
今回はハイキングだし、鎧などはつけなくて良いのではと提案した。
警戒は、俺がしておけば良いだけだし。
「えへへ! お揃いですっ!」
「そうだが……こういうのは私に似合わん」
「そんなことないですよ。ねえ、お父さん?」
「ええ、よくお似合いかと」
「そ、そうか……ありがとう」
ソラもお気に入りの青のワンピースなので、並んでる姿はとても良い。
こう、心が洗われる感じだ。
……きっと、結婚して子供でもいたらこんな感じだったのだろうか。
いやいや、クレアさんに失礼な話だな。
「ねえねえ、クレアさん」
「ん? どうした?」
「その、手をつないでも良いですか?」
「ああ、無論だ」
クレアさんがソラの手を握り、都市の中を歩いていく。
その姿を見るだけで、何故か心が温まるのだった。
馬を一頭借りて、門を出たところで三人で乗り込む。
この世界の馬に当たる魔獣は強く大きく、それくらいは平気みたいだ。
俺が馬の手綱を握って、前にソラ、後ろにクレアさんを乗せる。
「ソラ、しっかり掴まってろよ?」
「うんっ!」
「クレアさんも、平気ですか?」
「う、うむ、こうして後ろに乗ったことなどないのでな。ましてや、こんな格好で……」
クレアさんは、いわゆる横座りというやつである。
そして、俺の服の端をちょこんと掴んでいる状態だ。
「ゆっくりいきますので大丈夫ですよ。それでは……行きますか」
「ハイキング〜楽しいな〜」
「ふふ、そうだな」
ソラの鼻歌を聞きながら、ゆっくりと馬を走らせるのだった。
そして、三十分くらいで目的地に着く。
そこは目の前が森になっており、その前にはテントがいくつか置かれている。
さらに、その周りには石の壁が設置されていて、冒険者達らしき人達が何人かいたりする。
「ここは……?」
「ここは中堅……その手前くらいの冒険者達の狩場なのだ。故に、ギルドが無償でテントや場所を提供している。軽くだが、防波堤の役割の壁を作ったりな」
「なるほど。ここで泊まり込みで鍛錬したり、連携を深めたりするのですか?」
「ああ、迷宮に入るための訓練にもなる。一度入ったら、中々出れないこともあるのでな。ここなら、ある意味で安全だ。常時、ベテラン冒険者の方が在住しているし。それもあって、ここを選んだんだ」
そういうことか。
たしかに、ここならある程度安心して寛げそうだ。
ちょっとした、キャンプ場のような感じだし。
「わぁ……すごいです! わたし、こういうところに来たの初めて!」
「なら良かったよ。さてソーマ殿、あそこに馬小屋がある。まずは、預けるとしようか」
「ええ、そうですね」
興奮するソラをなだめつつ、まずは馬を預けたら……三人で林の中に入っていく。
すると、すぐにソラが駆け出す。
「わぁーい! 広い広い!」
「ふふ、楽しそうだな。だが、魔物もいるから気をつけないと」
「平気です。俺の気配には入っていないので」
「ん? どういうことだ?」
「いえ、あれから自分の身体の感覚を調べていたのですが……神経を集中させると、自分を中心とした一帯の音や気配をわかるようになりました」
以前、おじさんに聞いたことがある。
剣の達人とは、目を閉じていても間合いに入った瞬間にわかると。
範囲は違うが、その感覚に近いのかもしれない。
「それはすごいな……」
「というわけで、クレアさんものんびりしてくださいね」
「しかし、それではソーマ殿が……」
「平気ですよ、割と自然とやってるので。のんびりしながらでも出来ますから」
「……では、お言葉に甘えるとしよう」
「クレアさん! お父さん! 早く早く!」
その姿を見て……俺たちは顔を見合わせ、同時に微笑むのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます