第40話 おっさん、今度こそ絡まれる
俺が受付を去ると、クレアさんがやってくる。
「良い依頼は見つかりましたか?」
「ああ、それなりにな。そっちも、無事に受けられたか?」
「ええ。なにやら……ん?」
その時、何やら視線を感じた。
そちらを向くと、大柄な男がこっちを見ていた。
「……帰ってきてたのか。ソーマ殿、あまり見ない方がいい」
「……わかりました」
しかし、その時……相手がこちらにやってくる。
身長180超え、体重100ってところか。
ボディービルダーのような大きな身体に、背中に斧を背負っている。
短髪を借り上げた顔は厳つく、傲慢に染まった嫌な顔をしていた。
「おい、貴様」
「………」
「聞いてんのか?」
「……俺のことですかね? できれば、初対面で貴様と呼ぶ人とは話したくないのですが」
「なんだと?」
その瞬間、男から殺気が溢れ出た。
すると、クレアさんが間に入る。
「ま、待て! ソーマ殿落ち着け! ブライ殿も喧嘩腰はやめてくれ!」
「あん? 女如きがうるせえよ。なんだ? 俺様に抱かれる気になったか?」
「な、なっ……」
そう言ってクレアさんに手を伸ばそうとしたので、俺は奴の肩を掴んだ。
「邪魔すんな……ほう?」
「……用があるのは俺では? そしてなんて言った? 女性は、男の道具ではない」
こいつ……相当強いな。
力を入れてるのに、動きを止めきれない。
「やっぱり、強い奴だったか。ああ、そうだ……今すぐ俺と戦え」
「断る、貴方と戦う理由はない」
クレアさんに言ったことは腹がたつが、クレアさん自身が俺にやめてくれと目で訴えている。
ここで、俺の怒りをぶつけるのは筋違いというやつだ。
「はんっ、腰抜けか。しかも、甘ちゃんと見た。そんな奴は……ちっ、邪魔者が来やがった」
「ブライ! 何をしとるか!」
こちらに向かって、ハウゼン殿が駆けつけてくる。
「うるせえよ、耄碌ジジイ」
「貴様、冒険者ギルドを追い出されたいのか?」
「できるもんならしてみろや。まあ、今回はジジイの顔を立ててやるよ」
そう言い、俺をひと睨みした後……ギルドから去っていく。
「……ソーマ殿、クレア、すまない。うちの者が迷惑をかけた」
「いえ、俺は平気ですよ。ただ、クレアさんが……」
「私も平気だ。奴は、普段からあんなだしな」
「えっ? そうなんですか? その、何者か聞いても?」
「うむ、奴はA級冒険者の一人であるブライだ。この迷宮都市では、五本の指に入る実力者でもある。それゆえに、傲慢な態度が目立ってな……」
「なるほど。それで、みんなが黙っているんですね」
俺の一番嫌いなタイプ……というより、なりたくないタイプだな。
強ければ、何をしても良いと思ってる感じだ。
「まあ、今はタイミング悪く他の奴らが出払っているからな」
「あいつは戦闘狂でもあってな。多分、ソーマ殿の強さを感じとったのだろう。だから、ああやって喧嘩を売ってきたのだ」
戦闘狂……果たしてそうだろうか?
個人的には、そういう感じではない気がする。
「へぇ、そうですかね?」
「うん? どういう意味だ?」
「いえ、気にしないでください。まあ、犬に噛まれたと思って忘れることにします。今後、見かけたら近づかないことにします」
「……まあ、それが良い。あいつも迷宮に潜っていることが多いので、そんなにかち合うこともない……明日から迷宮か」
「いや、わしの方からきちんと注意をしておく。ソーマ殿、すまんが……」
「わかりました。なるべく避けるようにしますね」
「すまぬ」
「とりあえず、出ましょうか。かなり、目立ってしまっているので」
「ああ、そうだな」
ハウゼン殿に見送られ、ギルドの外へ出る。
「ふぅ……何とか、喧嘩にならずに済んだか」
「すみません、ご迷惑をおかけして……」
「いや、あれはあいつが悪い。だが……その、嬉しかった」
「何かしましたっけ?」
「ふふ……わからないなら良いんだ」
そうして、軽く微笑む。
よくわからないが……まあ、これから気をつけるか。
穏便に越したことはないし。
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