第41話 おっさん、ソラとお出かけする

 屋台で出来合い物を買い、ひとまず宿に戻る。


 もちろん、さっきの話はソラにはしないことにした。

 俺達が宿の扉を開けると……。


「お父さん!おかえりなさいっ!」


「ああ、ただいま。というか、毎回来なくて良いんだぞ? それに、俺かもわからないだろ?」


 出迎えてくれるのは嬉しいが、どうにも照れ臭い。

 それに、ソラも大変だろう。


「えへへ、お父さんだってわかるもん!」


「ん? どういうことだ?」


「えっと、お父さんの匂いっていうか……」


「な、なに?」


 ま、まさか、加齢臭か!?

 いや、アラフォーだし無理もないか……。

 ぐぬぬ……これはオレンジを使って消臭スプレーを作らなくては。


「ソーマ殿、落ち着け。多分、気配のことを言っているんだと思う」


「……気配ですか?」


「獣人は我々より、色々な意味で身体能力が高い。特に犬系獣人の耳と鼻は特別だ。無意識のうちに、それを感じ取ってるのだろう」


「よくわかんないです!」


「ふふ、それは仕方あるまい」


「なるほど……」


 とりあえず、加齢臭でなければ良い。

 お父さんくさいと言われた日には……。


「お父さん?」


「ぐはっ!?」


 い、いかん! 想像しただけで、膝をついてしまった。

 今はいい……しかし今後は、気をつけていかないと。






 その後、屋台で買ってきた焼きそばみたいなものを食べる。


「さて、私達は予定通りに依頼に行く。ソーマ殿はどうする?」


「そうですね……ひとまず、ドワーフさんの店に行こうかと。そろそろ、お金も貯まってきたので。これ以上、クレアさん達の武器をお借りするわけにはいかないので」


「うむ、我々は構わないが……しかし、本人が気になるだろうな」


「お父さん! わたしは!?」


「無論、連れて行くさ。一緒に、お出かけでもするか?」


「わぁーい! やったぁ〜!」


 そういや、仕事にかまけてお出かけとかはしてなかったな。

 いかんいかん、これでは父親失格だ。

 食事を終えたら、宿を出て二人と別れて歩き出す。


「よく似合ってるな」


「えへへ〜」


 二人に選んでもらった青のワンピースは、とてもよく似合っている。

 今の姿は、誰が見ても奴隷には見えないだろう。

 手を繋いでる姿は、どんな風に見られているのかな?

 きちんと、親子に見えていたら嬉しいが。


「そろそろ、あと宿もどうするかなぁ」


「えっ!? 出ていっちゃうの!?」


「いや、悪くはないんだが……やはり、自分の店を持ちたいしな。ダンジョンには入れば、結構稼げるみたいだし」


「あっ、そっか……」


「あそこのままがいいか?」


「ううん! お父さんがいるなら良い!」


 その顔は、とてもそうには見えない。

 やはり、クレアさんとミレーユさんに相当懐いたらしい。

 しかし、これ以上二人にご迷惑をかけるわけにはいかないしなぁ。

 そんな会話をしつつ、ドワーフのガラン殿の店に来る。


「お主……ようやくきおったか」


「すみません、ガラン殿。少し入り用だったもので」


 解体部屋ではすでに何度も会っているが、ここの鍛冶屋に来るのは初めてだ。


「ふんっ、仕方あるまい。お主ほどの強さなら、E級くらいでは武器も防具もいらん。ところで……その小娘はなんだ?」


「まあ、そんなんですけどね。ソラ、挨拶をしなさい」


「あ、あの! はじめまして、ソラっていいます!」


「うむ、元気な娘だ。わしの名はガランじゃ。して、今日はどうした?」


「明日からD級昇格試験を受けるので、流石に自分の武器を用意しないとかなと」


「なるほどのぅ。あの包丁で切れば良いのではないか?」


 ガラン殿には、すでにドラゴンを刺した包丁を見てもらった。

 どうやら包丁自体にもドラゴンの力が入ってるらしく、凄まじい切れ味を誇る。


「いえ、包丁は武器ではないので。何より、俺にはリーチが短いですし」


「それもそうじゃ。ならば、どんなのが良い?」


「剣がいいのですが……もしかして、刀とかってご存知ですか?」


「刀……ああ、知っとるな。確か、ここに……あった」


 ガラン殿が後ろの部屋から持ってきたのは、まさしく俺が見慣れた刀だった。



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