第31話 おっさん、美女と歩く

 結局、ソラをミレーユさんに預けて、クレアさんと宿を出る。


「まずは、ギルドに向かうとしようか」


「ええ、そうですね」


 二人で並んで都市の中を歩いていく。

 その際に、俺はさり気なく車道側にくる。

 馬車なんかが走ってたりして、危険な可能性もあるからな。


「……むぅ」


「どうかしましたか?」


「い、いや、何でもない」


「そうですか?」


「き、気にしないで良い! ただ……こんな格好は久しぶりなのでな。こう、動き辛くて敵わん」


 確かに鎧とは違うだろうなぁ……ん? そういえば、季節感とかどうなってる?


「そういえば、この国の気候ってどうなってますか? あと季節感とか日付とか」


「ああ、言ってなかったか。別に難しい話じゃない。一ヶ月は三十日、一年は十二ヶ月で三百六十日。曜日は火、水、風、地、闇、光となってる。季節は今は涼しい季節で、この先暖かくなる。そして、次に寒くなってくるという感じだ」


「……なるほど、ありがとうございます」


 春→夏→冬→春を繰り返す感じか。

 梅雨とかはないと……まあ、水魔法があるから問題ないと。

 四季はないが、季節感くらいはありそうだ。

 それによって、作る料理も変わってくる。


「今は四月だから、過ごしやすい季節だな」


「そうですね、歩いていて気持ちがいいですし」


 ふと横を見ると、風にたなびく銀髪が目に入る。

 陽の光を浴びて輝く姿は、とても美しい。

 今更ながら……とてつもない美女と歩いているのだな。


「な、なんだ?」


「いえ、綺麗な髪だと思いまして」


 割と率直な感想だ。

 なにせ西洋料理を学んだとはいえ、俺は生粋の日本人だ。

 銀髪の美女など、そうそうお目にかかれるものじゃない。


「……へぁ?」


「ヘアー? ええ、そうですね」


「っ〜!! は、早く行くぞ!」


 そう言い、俺を置いていく勢いで歩き出す。


「ちょっ!?」


「日、日が暮れてしまうからな!」


 ……何か間違ったことを言っただろうか?



 ◇


 き、綺麗だと?


 いや、確かにの娘として手入れはしている。


 それに、男性に言われたことがないわけではない。


 なのに、どうして……こんなに動揺している?


 やはり、ミレーユの言った通りだったのだろうか……?


 あれはソーマ殿に出会ってから、初めて宿に着いてからのことだった。


 重たい荷物や鎧を脱ぎ、私達はようやく落ち着くことができた。


「ふぅ……どうにか着いたか」


「流石に駄目かと思っちゃいましたよ。まさか、オーガが現れるなんて」


 安心からか、二人してベットに寝転がる。


「ほんとにな。ソーマ殿と出会ってなかったら、どうなっていたか……間違いなく死んでいたな」


「ええ、そうだと思います。覚悟はしてましたが、私もまだまだ甘かったですね。助けるなんて言ってたのにすみません……」


「何を言うか、ミレーユが付いてきてくれて私は嬉しかった。だが、確かに甘かったな。登録をして、トントン拍子にランクが上がって行って……別にパーティーを組まなくてもやっていけると思ってしまった」


 当然、私たちも最初はパーティーを組もうとしていた。

 しかし、女二人のパーティーに寄ってくる男達がろくなもんじゃなかった。

 見張り役が、私達が寝ているテントには入ろうとするし……女だからという理由だけで、見下した視線を向けられる。

 そんな状態では、パーティーなど組めるわけがない。

 かと言って、女性冒険者が少ないので……それも難しい。


「私達、男の人にとっては魅力的に映るみたいですからね」


「うむ……複雑なことにな。ただ、そんな見た目だけで寄ってくる男など願い下げだ」


「あら、そんな男嫌いなクレアですが……ソーマさんには心を許してますね?」


「……はい? そ、そんなことは……」


 確かに彼は、私に対して自然体だ。

 へりくだるわけでもなく、偉そうにもしない。

 それが異世界人だからなのかわからないが、それが心地いいのは事実だ。

 生まれから敬遠されるか、邪な気持ちで近づかれることが多かったから。


「ふふ、気になってますね?」


「そ、そんなんじゃない」


「よーし……ソラちゃんの服を買うついでに、クレアもお洒落もしましょう」


「な、なに?」


「別に女子らしいことしても、バチは当たりませんよ。それに、息抜きも必要ですから」


「……ちょっ!?」


「決まりですね。では、お洋服を決めていきましょう。ふふ、久々で楽しみです」


「お、おい!?」


 そうして私は、以前のようにミレーユに着せ替え人形にされるのだった。



 ◇


 ……こうして、男性と並んで歩くなど初めてだ。


 私を気遣って、しっかり壁際に誘導するし……洋服や髪のことも褒めてくれた。


 ……実はプレイボーイなのか?


「むむっ……」


「クレアさん? どうしました? まだ何か怒ってます?」


 ただ恥ずかしかっただけなのだが、どうやら勘違いをされたらしい。

 しかし、それを訂正することもできない。

 我ながら、なんと可愛げのない女だ。


「……怒ってなどいない」


「まあ、お詫びに美味しい料理でも作りますから」


「あ、ありがとう……すまぬ」


「いえいえ」


 そう言って、苦笑いをしている。


 私がこんな態度を取っているのに、器の大きい男性だ。


 ……いやいや、私はそんなことにかまけてる時間などない。


一刻も早く手柄を立てるなり、強くならねばなるまい。

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