第32話 おっさん、ドワーフ族のガランに出会う
その後、ギルドに到着すると……奥から、すぐに声がかかる。
「ソーマさーん! ちょうど今、終わったみたいですよー!」
「了解です!」
「私はここで待ってるから行くと良い」
俺が慌ててアリスさんに近づくと、下から声がする。
「おい」
「……はい?」
遠くからは気がつかなかったが、どうやら人がいたらしい。
身長は俺の腰の高さほど……小学生高学年くらい。
しかし、その顔は五十代くらいに見える。
全体的にずんぐりむっくりしてる体、逞しい鬚……アンバランスだ。
……もしかして、これってアレか?
「何をジロジロ見ている?」
「失礼いたしました。田舎者で不勉強で申し訳ないですが、ドワーフ族の方でよろしいでしょうか?」
俺は姿勢を正し、しっかりとお辞儀をする。
人の大半は、最初の印象で決まると言われてるからな。
「ふむ……いかにも」
「ありがとうございます。すみません、初めてお会いしたので、少し不躾な視線を向けてしまいました」
「い、いや、構わん……変な奴じゃ。アリスよ、お主の言った通りじゃな」
「ふふ、だから言ったじゃないですか」
……話が見えないが、どうやら悪印象は避けられたみたいだ。
「すみません、話が見えないのですが……」
「あっ、すみません。こちらの方は、ドワーフ族のガランさんといいます。鍛治師の傍、解体のお仕事をしているんですけど……あとは、自分でお願いしますねー」
鍛治師で解体屋さんなのか……それは、是非とも仲良くなりたい。
するとアリスさんが身を引き、ガラン殿が前に出てくる。
「お初目にかかる、ドワーフ族のガランという」
「初めまして、ソーマと申します」
「ディアーロを倒した者が気になったので、一目見ようとやってきたのだ」
「何か気になる点がありましたか?」
「いや、生きたまま持ってくる者など珍しいのでな。それに、あのツノを折ることができるとは、新人冒険者のできることではないわい。しかし、見て納得した……お主は、只者ではない」
「そんなことはありませんよ、ただのおっさんですから」
「ワシに比べれば、まだまだ若造ではないか。だが、近頃の奴よりは見込みがありそうじゃ」
「あ、ありがとうございます?」
「ふん……今度解体して欲しい物があれば、直接ワシのところに持って来い。そして、装備が欲しければ店を訪ねるが良い」
それだけ言い、併設してある解体部屋に入っていく。
「……えっと?」
「ふふ、気に入られましたね?」
「そうなんですか?」
「ええ、もちろんです。ガランさんは、気に入らないと話すこともしませんから。腕利きの解体屋にして鍛治師さんですから、仲良くなっておいた方が良いですよー」
「わかりました、今度行ってみますね」
「是非是非〜」
なるほど、ドワーフ族のいうのは職人気質な方が多いのかもしれない。
しかし、縁が出来たことは嬉しいことだ。
諸々の代金を受け取り、俺がクレアさんの元に戻ろうとすると……以前俺に絡んできた男が、クレアさんに話しかけている。
「どうする?」
なにやら言い争ってる感じだが、違っていたら悪い。
しかし、そうじゃない場合、クレアさんにはお世話になってるからどうにかしたい。
「……まあ、いいか。勘違いだったら、俺が恥をかくだけだ。それに、謝ればいい」
そうと決めた俺は、素早く相手に近寄り——その肩を掴む。
「おい、何をしている?」
「ああん? なんだ、おっさん——うおっ?」
肩に圧力をかけて、動けないようにする。
「その方に何か用かな? 俺の連れなんだが?」
「……えぇ!? ソ、ソーマ殿!?」
「こいつの連れ……あれ? 良く良く見たら、あの時のおっさんじゃん」
「ああ、そうだ」
「ま、待て!ソーマ殿! こいつは、一応知り合いだ!」
「あれ? ……そうでしたか。どうもすみませんでした。君も勘違いして悪かった」
どうやら、俺の勘違いだったらしい。
だが、何かあってからでは遅いからな。
「い、いや、私は……その」
「ははーん、そういうアレな訳ね? いやいや、お前も」
「うるさいっ!」
「ぐはっ!?」
その男は腹パンをくらい……地に伏せた。
「お、おい? 平気か?」
「お、おうよ……これくらい日常茶飯事だ。あと、俺にしたことは気にしないでくれ。俺も、あんたに絡んでしまったからな」
「わかった。それではおあいこだな。改めて名乗るが、ソーマという」
すると、男が何とか立ち上がり……。
「オレの名前はダインっていうぜ。ランクD級の若手有望の冒険者だ」
「自分で言う奴がいるか……」
「う、うるせいやい!」
「なるほど、仲がいいのですね」
さっき言い争って見えたのは、じゃれていたというところか。
……あれ? むしろ、邪魔者は俺だったのでは?
「うむ、ダイン君。悪かった、おっさんが邪魔したみたいだ」
「はっ?」
「ち、違うから! っ〜!! ソーマ殿! 解体した魔獣は!?」
「えっ? もう終わったんで、あとは隣に行って受け取るだけです」
「なら行くぞ!」
そう言って、俺の手を引く。
そういえば、女性と手を繋ぐのは何年振りだろうか?
柔らかいなぁ……そんなことが頭をよぎるのだった。
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