第30話 おっさん、宿にて話す
ソラを抱いたまま、くるくる回っていると……。
「コ、コホン! 心温まる風景に水を差してすまないが……」
「ふふ、そうですね」
いつの間にか、クレアさんとミレーユさんも表に出てきていた。
「す、すみません」
「いや、良いんだ。ひとまず、無事で何よりだ」
「ええ、ほんとに。どんなに強くても、死んでしまうことがありますから」
「どうにも、ソーマ殿は無茶をしそうな雰囲気があるからな」
先輩冒険者の助言だ、心に留めておこう。
ただ、もう遅い気もするが……うん、これから気をつけよう。
「はは……」
「……どうやら、遅かったらしい」
「とりあえず、中で話を聞きましょうか。ソラちゃんも寝てしまったようですし」
「えっ? ……あらら」
「すぅ……」
俺に抱かれていたソラが、いつの間に寝息をたてている。
そんなソラを抱えつつ、中に入り食堂の席に着く。
「やれやれ、良く寝てるな」
「窓の席にいて、ずっと待ってたからな。疲れたし、きっと安心したのだろう」
「大変だったんですよ? ずっとここで待つって」
「それはすみませんでした。俺の配慮が足りなかったですね」
「いや、仕方なかろう。それより、どうだったのだ?」
ソラを抱いたまま、俺は今日の出来事を説明する。
依頼をきちんとこなしたこと、知り合った冒険者達。
そして、ディアーロのことなど。
「なるほど、そんなことが……しかし、ディアーロの突進を素手で受け止めるか」
「なんか、前にもこの会話をしたような……?」
「まあ、イノブタの突進を止めるくらいだ。それにしても、食べるためか……アレは美味いとは言えないぞ? 硬いし、結構匂いもきつい」
「そうみたいですね。まあ、一応考えがあるので」
味自体が不味かったら、どうにもならないかもしれないが……そうでないなら、やりようはある。
もし成功すれば、それが俺の強みになるかもしれない。
「むにゃ……」
「それより、本当にありがとうございます。ソラの洋服なども見てもらって」
「いやいや、大したことじゃない。お主からもらったオーガの魔石を換金しても、お釣りがきたくらいだ」
「残りはお二人に差し上げます。それと、今日はラフな格好ですね?」
鎧とは違い、柔らかい印象を受ける。
ただ、カッコいい女性に変わりはない。
「あ、ああ、今日は休みだしな」
「何を言ってるんですか。普段はそんな格好しないじゃないですか」
「そうなんですか?」
「そうですよ、クレアったらソーマさんが——むがぁ」
「な、なんでもないからな!?」
クレアさんが思い切り、ミレーユさんの口を塞いでいる。
本当に、仲が良さそうだ。
さっき会った二人もそうだが、この歳になるとそういう光景が微笑ましく映る。
「ええ、わかりました」
「わ、わかられても……」
「とりあえず、よくお似合いですね」
「そ、そうか!」
「ふふ、よかったですね?」
「べ、別に……それより、そろそろ行かないで良いのか?」
時計を見ると、確かに時間が経っていた。
ギルドに戻る頃には、一時間くらい経っているだろう。
「そうですね。さて、ソラはどうするか……」
「そもそもの話、ディアーロを夕飯にするのだろう? 夕飯は断るとして、どこで調理するのだ?」
「あっ、そうでしたね……本当なら、屋台とか出したいんですけど」
あの噴水広場では、屋台があった。
料理人としては、作って食べるのも良いが、やはり皆に食べさせたい欲がある。
「屋台か……ソーマ殿が料理をするなら、何か美味くなる考えがあるのだな?」
「ええ、もちろん」
「だったら決まりだ、私達の方で手はずを整えておこう。屋台に出すには許可もいるが、それもやっておく」
「そ、そんなことまでお願いするわけには……」
「いえ、平気ですよ。私たちには伝手があるので」
「そうだ、遠慮しないでくれ。それに、まだ恩を返せてない」
「……すみません、ありがとうございます」
少し図々しい願いだったが、2人の好意に甘えることにする。
良い加減、料理を提供したいという気持ちは勝てなかった。
だが、これで……ようやく、料理人らしいことができるな。
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