第29話 おっさん、おかえりを言われ、ただいまを言う

 ディアーロを担ぎつつ、二人と話しながら都市へと向かう。


 というよりは、俺が一方的に話を聞く感じだが。


 だが、若い子と話す機会など滅多にないから楽しいものだ。


「いやぁ、本当に危ないですよ。アレを受け止めるなんて……ソーマさん、何者ですか?」


「うんうん、アルトの言う通りです。ディアーロのランクは魔獣に例えるとE級で、そこまで強いってわけじゃないですけど……もちろん、私達にとっては強敵ですが。ただ、あの突進を受け止めるような真似をした人は見たことないです」


「そうだよなぁ。聞いた話だと壁や木に誘導して、そこに体当たりをさせる。その隙をついて、遠距離攻撃で仕留めるのが普通だって。ソーマさん、素手で止めたもんなぁ……カッケェ」


 ……なんだが、むず痒いな。

 ただ単に、俺には遠距離攻撃がなかったのも理由だし。


「別に、どこにでもいる普通のおっさんだよ。まあ、真似はしない方がいい」


「「しませんよ!!」」


「そ、そうか」


 いかんいかん、この身体になってから精神的に麻痺しているようだ。

 目立たないためにも、もう少し穏便に済ませられるようにしないと。


「そういえば、どうしてあのやり方だったんですか?」


「あいつのドリル回転って、突っ込む時にしか出来ないんだなと思ってさ。だったら、それが止まる時が来るはずだ。あいつの武器はあれだけみたいだし、あとは掴んで待てば良い」


「あぁ〜……って納得しませんって!」


「そうですよ! 危ないからやめた方がいいですって!」


「……ハハ」


 やはり、若い子達と話してるとくすぐったいものがあるな。


 ただ、気持ちのいい若者達だ……死なないでもらいたいものだ。






 森を抜け、魔物や魔獣に出会うことなく、無事に都市に到着する。


 そのまま冒険者ギルドに行き、出来事を報告をする。


 二人は別の場所にいき、俺はディアーロを預けた後、アリスさんに呼ばれた。


「というわけで、少し注意喚起が必要かと」


「ソーマさん、貴重な情報をありがとうございます。ゴブリンソルジャーやディアーロがいる区域ではないのですが……」


「それなんですが……」


 あれ? どこまで話して良いんだ?

 竜殺しは言えないが、オーガを倒したことは言って良いのか?


「あっ、ソーマさんのことはギルドマスターから聞いてるので平気ですよー。オーガを倒すくらいの実力者だけど、ちょっと特殊だから面倒を見てやってくれって。確か、ものすごい田舎から来たって。私はこの都市育ちですから、色々と知ってますのでー」


「……はは、すいません」


 なるほど、そういう話になっていると。

 だから、俺専用ってことだ。


「とりあえず、私の方からマスターには伝えておきますねー。それと、依頼はバッチリです。まさか、三つを日が暮れる前に終わらせちゃうとは思いませんでしたけど」


「よろしくお願いします。もしかして、早いのですか?」


「早いですよー。片付けだって、清掃だって重労働ですから。重い荷物も持ちますし、あちこちに歩いたりしますし。しっかり休憩してから、次の仕事に取り掛かるものですよ?」


「……そうですか」


 ……まあ、言われてみれば。

 今日一日を通して、一度しか休憩してないな。

 前の世界ではアラフォーだったから、すぐに疲れるようになっていた。

 しかし、この世界に来てからは疲れ知らずか……うん、この恩恵は助かるな。


「ふふ、期待の新人さんですねー。では、引き続きよろしくお願いします」


「ええ、こちらこそ」


「では、次ですね。コボルトソルジャーのランクは適正ではないので、特別に保留扱いにしておきます。そのランクになったらプラスにします」


「ありがとうございます。魔石は、こちらで買い取ってくれるのでしょうか?」


「もちろんですよー。それと、解体しているディアーロはどうしますか? 肉や皮など買取もできますけど……」


「そうですね……肉を残して買取でお願いします」


「あの肉を……珍しいですね。いえ、わかりましたー。それでは、そのように手配しておきます。一時間くらいかかりますが、どうしますか?」


「一度、宿に戻ろうかと思います」


「了解です。それでは、お待ちしてますねー」


 報告を終える外に出ると、ギルドの前で二人が待っていた。


「ソーマのおっさん、本当にありがとうございました!」


「こら! 命の恩人になんてこというのよ!」


「いて!? い、いや、だって……」


 少し話をしたからか、都市に着いたから、二人の空気が軽くなる。

 こちらが本来の二人なのだろう。

 無理もない、危うく命を落とすところだったんだ。


「気にすることない、俺がおっさんなのは確かだしな。新人同士だ、良かったら仲良くしてくれ」


「それはもちろん!」


「はいっ! こちらこそお願いします!」


「それなら良かった。よかったら、あとで飯でも食べるか? ディアーロの肉だが」


「えぇー……え、遠慮しようかと……」


「す、すみませんが……」


 そういや、あんまり美味しくないとか言ってたか。

 美味しくする自信はあるが、無理に誘うのも悪いな。


「なら仕方ない。一応、この宿にいるから気が向いたらきてくれて良い」


「わ、わかりました」


「は、はいっ」


 そして二人に別れを告げ、俺は宿に戻る。

 すると、宿の扉が勢いよく開く!


「お父さん!」


「おっと……」


 体当たりをしてきたソラを優しく受け止める。


「お帰りなさい!」


「ああ、ただいま」


 お帰りなさいに、ただいまか……このやり取りをしたのはいつ以来だろう。

 心が温かくなって、気持ちが和らぐ。


「あ、あのね! お父さん! これ……」


「ああ、よく似合ってる」


 俺からソラが離れ、その場でくるりと回る。

 その際に、青いワンピースがゆらゆら揺れていた。

 白い髪と青の瞳とマッチし、とてもよく似合っている。


「ほ、ほんと? ……えへへ」


「ああ、本当だ」


「あ、ありがとう! えっと、クレアさん達が色々と見てくれたの! あと、お父さんに頼まれたって!」


「男ではわからないことがあるからな」


 どうやら、二人に任せて正解だったようだ。

 オーガの代金は無くなったが、この笑顔を見れるなら安いものだろう。


「あと……ごめんなさい!」


「うん? どうした?」


「そ、その……お父さんが帰ってこないかと思って……捨てられたのかなって」


「俺はそんなこと一言も……」


 自分で言って気づいた、自分が如何に馬鹿だったかを。


 この子は両親に捨てられ、奴隷として生きてきた。


 そんな子が、頼りにしてる俺から離されて不安にならないはずがない。


「……すまん、俺が浅はかだった」


「ち、違うよ! わたしが悪いんだもん!」


「じゃあ……お互い様ということで、これで終わりだな」


「はいっ! お父さん帰ってきてくれたもん!」


 そう言い、再び俺にしがみつこうとするので……両手で抱き上げる。


「わわっ!?」


「ソラ、お前が俺から離れない限り側にいる。だから、安心するといい」


「……うんっ!」


 すると……顔をくしゃっとして、子供らしく笑うのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る