第27話 おっさん、ディアーロを狩る

 つい、勢いで倒してしまったが……まだ戦ってもいなそうな状態だった。


 こういう時は、どっちに転ぶがわからない。


 プライドや感情が邪魔をして、こっちに文句を言ってくる場合もある。


「すまない、お節介だったか?」


「い、いえ! ありがとうございます!」


「本当にありがとうございます!」


 二人して、頭を下げてくる。

 どうやら、していいお節介だったらしい。

 感謝を求めたわけではないが、やはりこちらの方が気分はいい。


「それなら良かったよ」


「そ、それにしても、強いですね?」


「本当だよね! F級のコボルトソルジャーを倒しちゃうなんて!」


 見たところ、10代後半くらいの男女の組み合わせのようだ。

 真面目そうな少年と、活発そうな少女である。

おそらく、新人の冒険者だろう。


「それで、何があったのかな?」


「それが、H級のゴブリン退治に来たんですけど……そしたら、Gコボルトの群れに出会ってしまいました。さらには、そのボスまで」


「普段は、こんなところにいないんですよ!それが、コボルトだけならまだしもソルジャーまで」


 聞いた話では、魔物は進化するらしい。

 条件はわからないが、ソルジャーやジェネラル、キングといったように。


「なるほど……」


「どうしたんだろ?」


「うーん、困るよね。私達にとって、ここは安全な狩場というか…」


「なんか、少し様子が違う気がするよな」


 もしかして……これってドラゴンのせいとか?

 オーガも、いつもと違う場所に現れたとか言ってたし。

 別に俺の責任ではないが……相談するか。


「でも、私達の前に来た人達はふつうだって言ってたよね?」


「ああ、言ってたな。じゃあ、たまたまか?」


 俺がひとまず戻ろうと言いかけた時、何かが聞こえる。


「二人とも、何かくる」


「えっ!?」


「こ、今度は何?」


 そして、茂みから何かが飛び出してくる!

 それは鹿のような生き物だった。

 ただし、地球で見たものほど可愛くないが。

 そのツノはドリルのようになっており、人を貫くには十分だろう。

 筋肉質だし、大きさも俺の肩くらいはある。


「ディアーロ!? なんでこんな手前の森にいるんだよ!?」


「ディアーロ?」


「気をつけてください! 魔物ではありませんが、強い魔獣です! そのツノを使った突進は、先程のコボルトソルジャーをも貫きます!」


「フルルッ!」


 どうやら、興奮している様子だ。

 多分、完全に敵だと思われている。

 背を向ければ、おそらく後ろから貫かれるな。


「ところで、こいつは美味いのか?」


「へっ? い、いや、独特の臭みがあって美味しくはないって聞いたことが……」


「あと、肉が硬いとかって聞いたことあります」


「なるほど」


 目線を逸らさずに、思案する。

 個人的に、殺すなら食べるべきだと思っている。

 ただのエゴかもしれないが、生き物を殺す以上は。

 魔物とかは食えないから話は別だが。


「……やるか。君たち、そこから一歩も動くなよ? おそらく、動いた奴が狙われる」


「わ、わかりました」


「は、はい……!」


「良い子だ……さあ、かかってこい」


 俺が動きを見せると……。


「フルルッ!」


 予想道理に突っ込んでくる!

 しかし……受け止めるつもりだったが、予想外の出来事に判断を変えて避ける。


「ふむ……強いと言われるわけだ」


「フルルッ!」


 その突進は、大木を倒していた。

 奴が走ってくる瞬間、そのツノが回転をしたのが見えた。

 さながら、ドリル回転といったところか。


「ひぃ!?」


「か、身体がバラバラになっちゃうよ……」


「大丈夫だ、次は止める」


「「へっ??」」


 惚ける二人を尻目に、少し腰を落として構える。

 目に力、腕に力を込めるイメージ。


「さあ、こい」


「フルルッ!」


「フンッ!」


 もう一度同じように突進してくるのを……ドリルの付け根を押さえることで止める!

 ギュルルルル!!とドリルが回転する音が耳を直撃する!

 そして俺の腹を貫こうと、ディアーロが押してくる。


「おっさん! む、無理だって!」


「早く手を離さないと!」


「問題ない……!」


 俺の計算が正しければ……よし! 回転が止まった!

 回転が止まったツノを握り——叩き折る!


「フルァァァ!?」


 そのショックか、ディアーロが地に伏せる。


「う、嘘だろ……?」


「あのドリルを止めちゃった……?」


「ふぅ、上手くいったか」


 膝をついて、心臓の位置に手を触れる。


「……よし、生きてるな」


「ど、どういうことですか?」


「こ、殺さないの?」


「いや、殺すのは後だ」


「どういうことですか?」


「いや、食べるためにはそっちの方がいいかと思ってな」


 正直言って、殺すだけだったら難しくはなかった。

 突進を避けて、首に剣を叩き込めば良い。

 しかし、それではダメだ。

 この場で食べないなら、どんどん鮮度が落ちていく。

 だからあえて突進を受け止めて、気絶させる方向に持っていった。


「じゃあ、どうするんですか?」


「ひとまず、送って行くから帰ろう。そして、ギルドに報告だ」


「そ、そうですね」


「はいっ! ありがとうございます!」


 アルトとレナと名乗る二人を連れて、俺は都市へと戻るのだった。




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