第22話 おっさん、ようやく一息つく
俺が依頼を受け終わったタイミングで、外からクレアさんが戻ってくる。
「ソーマ殿……どうやら、無事に依頼を受けられたみたいだな」
「ええ、どうにか」
「それにしても、何かあったのか? なにやら、ざわざわしているが……」
「すみません、早速騒ぎを起こしてしまいまして……」
どうやら、あの男はいなくなったようだ。
だがギルド内の人間は、相変わらず俺に視線を向けている。
「ふむ、それならさっさと去るとしよう」
「ええ、そうですね」
俺達は眠っているソラを迎えにいき、冒険者ギルドを後にするのだった。
クレアさんの案内の元、迷路のような路地を進んでいく。
土地勘がなかったら、たどり着けないような道だ。
そして敷地の広い、二階建て風の宿に到着する。
「……ふぁ?」
「おっ、起きたか」
「……おとうしゃん?」
……ぐはっ!? なんだこれは?
なにか、身体に電流が流れてくる!
思わず、膝から崩れ落ちそうになる。
「へ、平気か? ふらふらしているが……」
「え、ええ、何とか」
「流石のソーマさんでもお疲れでしょう。さあ、宿に入りましょう」
中に入ると、一階部分は食事処になっているようだ。
カウンターキッチンがあり、テーブル席がいくつかある。
天井は吹き抜けになっており、左端には階段が見える。
「幸い、部屋は私達の隣が空いていた。ここの宿は安くて一泊鋼貨七枚だ。さらに、朝と夜には食事が出る。ちなみに、ソーマ殿の代金は一週間分払ってあるからな」
「何から何までありがとうございます」
日本円で言えば、一泊七千円くらいか。
一泊二食付きなら安い方だろう……多分、立地が関係してそうだ。
俺も店をやるなら、この世界の相場とかを考えておかないとな。
「まあ、命を救ってもらった恩からしたら安いものだ」
「それなんですが……これをもらってくれませんか? その、失礼ながら……見たところ、お金が潤沢にあるような感じには見えないので」
俺はポシェットの中から、オーガの魔石を取り出す。
あちらからしたら、大したことではないかもしれない。
だが、異世界人の俺と元奴隷のソラにとって、この出会いは運が良い。
だから、この方々にしっかりとお礼がしたい。
「いや、お主はその魔石の価値をわかっていないから……」
「いえ、なんとなくは分かってます。オーガがという魔物が、C級ランクの魔物だということくらいは」
さっき、掲示板を眺めているときに目に入った。
確か報酬金額は、銀貨3枚と書いてあったはず。
「むむっ……依頼書を見たな? ずるいぞ!」
「い、いや、ずるいと言われても……」
そう言って膨れる様は、少し可愛らしい。
やはり、大人っぽく見えても二十二歳だな。
「ほらほら、時間が勿体無いですよ。ソーマさん、ありがたく頂戴しますね」
「ミレーユ?」
「良いじゃないですか。ソーマさんはお金の価値や、この世界の内情について知らないのですから。その代わり、私たちが教えてあげれば良いかと」
「……わかった。じゃあ、責任を持って教えよう」
「決まりですね」
その後、店主に挨拶をして部屋に入る。
そしてまずは、入り口横にある部屋にいく。
「ソラ、まずは顔を洗いなさい」
「わかった!」
俺はその間に、部屋の中を確認する。
広さは10畳程度に、手前にベットが二つ。
奥には二人掛けのテーブルと椅子がある。
部屋の入り口の脇には、洗面台やトイレ、そして小さなシャワールームがある。
「ユニットバスタイプか……シャワー自体はないから、魔法で洗えってことか」
「お父さん! 洗ったよ!」
「おっ、そうか。んじゃ、このタオルで拭きなさい」
「うん!」
洗面所のタオルを渡したあと、色々と確認を続ける。
「おっ、シャンプーと石鹸がある……」
正直言って、シャンプーや石鹸があるのはありがたい。
歯ブラシは貰うことはできたが、移動中は水浴びしかしてないし。
「お父さん、お腹空いた……」
「そうだな」
その時、ドアをノックされる。
「ソーマ殿、食事の時間だ」
「おっ、タイミング良いな。ソラ、行くぞ」
「うんっ!」
手を繋いで部屋を出て、四人で下に降りていく。
そして、店員さんに窓際の席に案内される。
「おっ、すでに料理が置いてある」
「大体、決まった時間に出されるようになってるんだ。その前に宿に戻って来なければ、その日は食事抜きとされる。ダンジョンや依頼によって戻れない日もあるので、その時は前もって言っておけば料金が返ってくる」
「なるほど……時間? どのように確かめるのですか?」
「ん? 普通に時計があるだろう?」
ふと視線を向けると、壁に時計が置いてある。
シャンプーと石鹸といい、生活するには困らなそうで助かるな。
とりあえず、四人掛けのテーブルに着く。
メニューは根菜類のスープとパン、なにやら照り焼きチキンのような肉の塊だ。
「貴重なものなんですか? ソラの村にはあったか?」
「ううん、わたしの村にはなかったよ」
「そこまで貴重なものではないが、村程度なら必要はないだろう。朝の光と鐘の音で起きたりするしな。ここは一日中誰かが起きてる都市だ。時計は必須というわけだ」
「ふんふん……あっ、美味いな」
「あったかくて美味しい! お野菜もたくさん!」
「ああ、そうだな」
スープを一口飲んで、野菜の出汁がしっかり出てるのがわかる。
「そうだろ? 値段の割に料理も美味くてな……作れない身で何を言ってるんだという話だが」
「いえいえ、別にいいと思いますよ。うん……肉も美味い」
シンプルに醤油とみりんで味付けされている感じだが、焼き方は悪くない。
ただ、割とシンプルな料理が多そうだ。
コース料理という考え方もないみたいだし、そういう世界なのかもしれない。
「ハフハフ……」
「ソラ、食べたいのはわかるが、ゆっくり食べなさい。そうしないと、きちんと栄養にならないからな」
「んっ……」
「答えなくて大丈夫だ。今は食べることに集中しなさい」
俺の言葉に、ソラがコクコクと頷く。
しっかり、栄養をとってもらわないな。
「さて、我々は明日からの予定を話すとしよう」
「何か依頼を受けていましたよね?」
「ええ、三つほど」
ひとまず、受けた依頼内容を伝えると……。
「ほう? 感心だな」
「ですが、私達が手伝うことはできませんね。私達二人はDランクなので」
「ふむ……借りた恩を返せてないな。私たちでよければ、明日ソラを預かるか? 私達は明日は休みだしな」
「それは確かに助かります。あと、不躾なお願いなんですが……」
俺は二人に伝えると快く了承してくれた。
これで、心置きなく明日から仕事ができる。
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