第23話 おっさん、眠っていた記憶を思い出す

……久々にベットで寝たな。


これまでは野宿だったので、短い睡眠しかとってなかったが……。


「一応、夜から朝まで寝れる身体ではあると」


「んにゃ……」


ふと隣をみると、ソラが俺と一緒のベッドで寝ている。

そういえば、昨日寝かしつけようとしたら、お父さんと一緒に寝ると言われたんだっけ。


「ソラ、起きなさい」


「……おとうしゃん」


そう言い、俺にしがみつく。

これは昨日と同じ……グハッ!? 可愛いのだが!!


「い、いかんいかん……ソラ、きちんと起きない朝ごはんはないぞ? ここは時間が決まってるんだからな」


「……う、うん、起きる……!」


少し語気を強めたからか、ソラが慌ててベットから降りて洗面所に向かう。


「……はぁ」


境遇からいって、思いきり甘やかしてあげたい。

だが、俺自身が経験しているようにそれだけではいけない。

きちんと自立させるためには、厳しくすることも必要だ。


「……女の子だし、色々と加減が難しいが」


その時、俺の頭に封印していた記憶が蘇る。


『お兄ちゃん! あそぼ!』

『やだよ、おままごとだろ?』

『えぇ〜!? やってよぉ〜!』

『……はぁ、わかったよ。ただし、一回だけだ』

『わぁ! お兄ちゃん大好き!』


……しばらくの間、忘れていたな。

いや、忘れていたわけではない。

ただ、辛いから思い出したくなかったんだ。

多分、ソラといたから……思い出してしまったのだろう。


「……さん! お父さん!」


「ソラ? どうした? 顔は洗ったのか?」


「う、うん……お父さん、どっか痛い?」


「うん? どうしてだ?」


「だって、悲しい顔をしてたから……」


「……いや、平気だ。ほら、朝飯を食べに行くぞ」


強引に話を切り替え、ソラを連れて部屋から出る。

……こんな小さい子に心配させるわけにはいかない。




部屋を出て、階段を降りていくと……昨日の夜と同じ席に二人がいた。


すでに料理が並んでいたので、急いで席に着く。


「おおっ、起きたな」


「少しお寝坊さんですね」


「おはようございます!」


「おはようございます。すみません……ソラは起きたのですが、俺が少しぼけっとしてたみたいで」


「いやいや、仕方あるまい。いきなり知らないところに来て、疲れも溜まっていたのだろう。さあ、まずは食べよう」


宿の主に迷惑をかけるわけにはいかないので、四人とも黙々と食べ進める。

今日のメニューは、昨日と同じスープに、パンに肉を挟んだものだ。

俺とクレアさんは一足早く食べ終えたので、少し話をすることにした。


「……もしや、あまりメニューはない感じですか?」


「ん? ……そうだな、大体決まったメニューが出る。すまないな、他の宿なら変わったりするのだが」


「いえいえ、別に悪い意味ではないので。材料費を抑えるためと、残り物を出さないために必要ですから」


「そういえば料理人だったな。自分がやるときのことを考えていたのか?」


「ええ、そうです」


食べる時間帯が決まっていることも、料金が安い理由なのだろう。

そうすれば、一度の料理で済む。

となれば電気代しかり、ガス代しかりが安くなる。

さらには人件費や、片付ける手間なども省けると。


「ふむ、確かに色々と考えられてるな」


「……あれ?」


「どうしたのだ?」


「少し気になったのですが、ガスとか電気ってどのようになっているのですか?」


「どのようにとは?」


「「……ん??」」


思わず、二人して顔を見合わせてしまう。

すると、食べてる途中のミレーユさんが話しかけてくる。


「クレア、ソーマさんは異世……田舎から来たんですよ。きっと、ガスとか電気が必要ないところから来たんですから」


「う、うむ、そういえばそうだ。簡単な話だが、全て魔石によって成り立っている。電気なら雷属性を、火なら火属性といった感じでな」


「なるほど……だから魔石が売れるし、生活に必要なのですね」


「そういうことだ。魔物は人に被害を与えるが、恵にもなるというわけだ。そして、冒険者という仕事もできた」


「ふむふむ」


……瘴気が魔物と化すとは聞いたが、それを生活に組み込むか。

人は強いし、慣れるともいうが……都合が良すぎる気もするな。

まあ、俺が考えることじゃないか。




その後、食べ終えたので……いよいよ仕事に取り掛かる。


「さて……ソラ、二人の言うことを聞いて良い子にしてるんだぞ?」


「う、うん……お父さん、ここに帰ってくる?」


「ん? そりゃ、そうさ。ここに泊まってるわけだし、夕方には帰ってくるよ」


「わかった! 良い子で待ってる!」


「よし、偉いぞ」


「えへへー」


頭を撫でると、顔がくしゃっとなる。

……懐かしいわけだ、昔は妹によくやってたな。

結局、あれ以来……大事な人を作ることが怖くなったっけ。


「では、クレアさんにミレーユさん。ソラをお願いします」


「ああ、任せておけ。ふふ、楽しみにしてると良い」


「ええ、これくらいでお礼ができるなら安いものです」


「なになに? なにをするの?」


「ソラ、二人に任せてあるから安心しなさい。それでは、行ってくる」


「う、うん、行ってらっしゃい!」


三人に見送られ、一足先に宿を出る。


行ってらっしゃいか……悪くないものだな。


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