第13話 おっさん、イノブタを解体する
さて、気絶が解ける前に処理しなくては。
なおかつ、手早く済ませることを意識する。
肉は、死んだ瞬間から鮮度が下がっていくし。
「まずは、木にぶら下げて……」
丁度、大きな木の下を拠点している。
なので、クレアさん達が持っていた縄を使って、首を下にして吊るす。
「よいしょっと……うん、我ながら馬鹿力だな」
軽く百キロを超えるであろうイノブタを、簡単に持ち上げることができる。
「まあ、別に悪い意味で身体に異常はないからいいか」
次に持っていた包丁で、頚動脈を裂く。
すると、血が勢いよく流れていく。
こうすることによって血の流れはいいし、胴体が血で汚れることもない。
「そのつもりはなかったが、気絶させておいて良かったな」
前の世界と一緒とは限らないが、興奮状態だと良好な血の放出ができない。
前の世界でも、できるなら安静な状態で処理をしなさいと教わった。
頭の中の記憶を頼りに、作業を進めていく。
「そしたら、水で体表を洗い流すと……」
これにより血はもちろん、泥やゴミなどを洗い流す。
「次に内蔵を傷つけないように切れ目に沿って……」
それにしても、経験があるとはいえ……気持ち悪くもないな。
前にやったときは、結構きつかったのだが。
「それに、俺の包丁斬れすぎじゃないか?」
手入れは欠かさなかったし、もともといいモノではあるが……さっきから、抵抗感なくサクサクと切れる。
そして、順調に作業が進み……解体作業を終える。
シートの上には、部位ごとに分かれた肉が置かれている。
「ふぅ、これでいいか」
ほんとは冷やしたりして、臭みを取ったするが……まあ、時間がかかるから仕方ない。
もう、辺りが暗くなってきたし。
「そういえば、三人は平気……来たか」
森の方から人の気配がして、三人が戻ってくる。
「ソーマ殿、待たせしまったな」
「いえ、平気です。こちらこそ、ありがとうございました」
「ほら、ソラちゃん」
「あ、あぅ」
「ソラ、どうした?」
なにやらミレーユさんの後ろに隠れてモジモジしている。
「ふふ、照れているのだろう。ほら、綺麗になった姿を見せてやると良い」
「ええ、そうですよ」
「は、はい」
すると。ソラが前に出てきて……俺は思わず驚く。
黒く薄汚れていた髪は白く綺麗な髪に、身体もやせ細っているが綺麗になった。
綺麗になった顔は意外と整っており、お世辞抜きにして美少女と言っていいだろう。
しかも、綺麗なお洋服まで着させてもらっている。
「ソラ、綺麗になったな。それにお洋服まで可愛くしてもらったな」
「う、うん! クレアさんがくれたの!」
見たところロングTシャツだが、ソラが着たらワンピースみたいな感じになっている。
「へぇ? クレアさん、ありがとうございます。ほんと、優しい方に出会えて良かったです」
「い、いや……」
そう言い、クレアさんが頬をぽりぽりと掻く。
どうやら、照れているらしい。
「ふふ、クレアは子供に甘いですからね。ソーマ殿、作業ありがとうございました。あとは、私達にも手伝わせてください」
「そうだ。私たちだって、テント張ったり火を起こしたりはできるんだぞ?」
「しかし……」
「というか、お主も汗をかいているだろう?」
一人なら気にしないが、俺以外はみんな女性だ。
流石に気を使わないとな。
「あぁー、そうですね。では、俺もささっと汗を流してきます」
「ああ、そうしてくれ。一人で……愚問だったな。ソーマ殿は龍殺しなのだから」
「はは……まあ、多分平気です」
油断とか傲慢とかではなく、自然とその言葉が出た。
多分、感覚的に……そこまでの危険を感じていないのだろう。
「お、お父さん! わたしも手伝います!」
「おっ? そうか? なら、頑張ってな」
「うん! だから……」
「うん? どうした?」
「な、なんでもない!」
そう言い、そっぽを向く。
そんな仕草も、普通の子供らしくて良いと思う。
自然と顔が綻びつつ、俺はタオルを借りて森の中に入るのだった。
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