第12話 おっさん、魔法を使うが……

 その後、気を取り直して……ちなみに、ソラは頭を撫でられてうっとりしている。


 ……なんだこれ? 可愛いのだが?


もしや、これが父性というものなのか?


「コホン……では、今日の夕飯はイノブタを使うとしよう」


「わかりました。それでは、俺が料理をしますね」


「しかし……」


「いえいえ、慣れているので」


 俺が持っていた店は、山の近くの店でジビエ料理もやっていた。

 猟師さんが狩った獣などを、自分で捌いたりもしていたし。

 それどころか、たまに狩りに同行したり。

 だからこそ、生き物を殺すことにそこまでの忌避感はない。

 無論、良いことというわけではないが……この世界では助かりそうだ。


「私もクレアも、料理に関してはからっきしですからね……女性失格です」


「かたじけない……」


「そんなこそないですよ。別に料理ができなくても、素敵な女性はたくさんいますから」


「そ、そうか……とにかく、まずは水で洗い流す必要があるな」


「うーん、さっきの泉に戻れば良いか?」


「……魔法を使えば良いのでは?」


「へっ?」


「……もしかして、異世界には魔法がない?」


 そうだった……異世界から来たことは説明したけど、世界観の説明はしてなかった。

 というか、まだお互いにほとんど知らない。


「はい、魔法がない世界でした」


「そ、そうか……考えられんな。だが、ソーマ殿にも使えるはずだ。きちんとした魔法はともかく、生活魔法くらいなら今すぐにでも。あれは、獣人族以外なら使えるはずだ」


「ほ、ほんとですか!?」


「あ、ああ」


 アラフォーおっさんの俺だが、やはり魔法という言葉にはテンションが上がる。

 男なら誰もが、一度は使いたいと思うだろう。

 それこそ、中二病的なセリフとか……包帯の巻き方は忘れてしまったがなとか。


「お、教えて頂くことは可能でしょうか?」


「ふふ、まるで子供みたいだな。ああ、私でよければ教えよう」


「クレア、私が……」


「いや、私が教える。では、手を出してくれるか?」


 俺としてはどちらでも構わないが、ひとまず言われた通りに手を差し出す。

 すると、俺の手にクレアさんの手が触れ……何か、暖かいものが流れてくる。


「これは……」


「それが魔力だ。私の魔力を今、ソーマ殿に送っている。この方法は、魔法が苦手な者にわかりやすく伝えるために編み出された技だ」


「なるほど……確かに、何かがあるのはわかります」


「その感覚のままに……水を流れるのを想像して放つと良い。もちろん、唱えても良い」


「わかりました……水よ」


 その暖かいモノを意識しつつ、俺が唱えると……掌からホースのように水がチョロチョロと流れる。


「おおっ! 水が出た!」


「よし、成功したな。これが魔法だ。魔法には六大属性があり、火、水、風、地、闇、光となる。光と闇は選ばれた者しか使えない。基本的には、その他の四属性が一般的だと思って良い」


「なるほど」


「攻撃魔法のようなものは、才能と訓練が必要だ。割と、使えるものは限られている。私とミレーユは、そこそこ使えはするがな」


「その才能っていうのは、どうやってわかりますか?」


 もしかして、俺にも才能があったり……。


「うーむ……あくまで主観だが、ソーマ殿に魔法の才能は無いと思う」


「な、なぜですか?」


「うーむ、魔力に対して威力が低すぎる。それについても、街に着けば説明しよう」


「わかりました……」


 ここまで言うなら、きっとそうなのだろう。

 さようなら、俺の中二病よ……。


「ま、まあ、ソーマ殿は物理で殴った方が早いから平気だろう」


「慰めてくれてありがとうございます……」


「そ、それより、さっきの泉の方が気になるな」


「綺麗な泉でしたよ。それこそ、身体を洗えそうなくらいです」


「なに? ……それは入りたいところだ」


「では、三人で入って来て良いですよ。水さえ出せるなら、俺一人で処理できますから」


「むっ? しかし、料理ばかりか処理まで任せるのは……」


 短い会話しかしてないが、やはり律儀というか真面目な性格の方のようだ。

 こういう方には、好感が持てる。


「その代わり、この子を洗ってあげてほしいのですが……なにせ、俺がやるのもアレなので」


「ふえっ?」


 ソラは、多分十歳前後だ。

 俺は間違ってもロリコンではないので、体を洗うことに特に何も思わない。

 ただ、ソラは気にするだろう。

 できるなら、女性の方にやって貰った方がいい。


「なるほど、それは言えてるな」


「クレア、ここは適材適所です。ソーマさんにお任せしても良いのではありませんか? その代わり、街に着いたらお礼をしましょう」


「うむ、それなら良いか……ソラといったな?」


「ひゃ、ひゃい!」


 すると、クレアさんが膝を曲げてソラの目線に合わせる。

 その姿勢に、俺の中での好感度が上がる。


「すまないが、我々と一緒に水浴びをしてくれないだろうか?」


「え、えっと……」


「ソラ、大丈夫だ。この人達は平気そうだし、何かあってもすぐに駆けつける」


「う、うん……よろしくお願いします」


「うむ、決まりだな。では、早速行くとしよう」


 そして、三人が森の中に入っていく。


 この方々に会えて良かったな。


 ソラに関しては責任持っているが、俺に依存だけはしてはダメだし。


 人は色々な人と関わって、成長していくと思うから。



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