第2話

「哀歌、オーディションどうだった」

オーディション会場から帰った哀歌に

母親の哀子が声を掛けた。

「うん、まあまあ」

哀歌はあまり自信がなかったので、適当な

返事をした。

「あらあ、自信ないのね。そんなことじゃあ

オーディション落っこちちゃうわよ」

哀子がイヤなことをいった。

「いいよ。わたし、ずっとお母さんと一緒に

いるもの」

哀歌がそういうと、

「それは困るわ」

哀子がやんわりと断った。

「どうして」

「どうしてもよ」

哀子が夕食の準備を始めた。

「ふーん」

哀歌はどうしても納得できなかった。

そのとき、携帯が鳴った。

「おかあさん」

哀歌が哀子を呼んだ。

「なに、どうしたの」

哀子がエプロンで手を拭きながらやってきた。」

「オーディション合格したの」

「そう、よかったわね」

「うん、今日まで育ててくれてありがとう」

哀歌が冗談めかしてそういうと、哀子が

エプロンで目頭を拭き始めた。

そして、このときが生きた哀子と話した

最後の日になった。

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