第4話 コスパ悪いからやめた

「空飛ぶ車は!?」

「一時は販売されていたが諸事情あって結局普及しなかった。

 つまりコスパが悪かっという事だな。

 代わりに搭乗型のスマホが普及した。

 この馬がそうだ」

「お世話してくれるロボットは!?」

「結局、人がやった方が早くて安上がりで済むから売れなかった。

 あるにはあるが、玩具の類いだな」

「天空の城は!?」

「コスパ悪いからやめた」

「海底都市は!?」

「コスパ悪いからやめた」


 侍の「コスパ悪いからやめた」の連呼に、私はワナワナと肩を震わせていた。


「どうした? 何か不服か?」

「決まってるだろ!

 はるばる過去から未来に来たのに!

 なんで侍なんだよおおお!!?」

「いや、それはもう心得おろう?」

「だからガッカリしたんだよ!!」

「……?

 ああ、そなたが夢見た理想の未来予想か。

 成る程。それが外れた故、納得できなんだか」


 私は思わず、触れたままだったスマホから手を離した。


「いや。別にそなたの個人情報はネットにアップされてはおらんぞ?

 あくまで某から見たそなたの情報を解析させ、思考パターンを読んだまで」

「そういうのは求めてないんだよぉ……」

「ふむ。

 まぁ、期待外れかもしれんが、折角だ。

 この時代を見て回らんか?」

「……わかりましたよぅ。

 案内はお願いしても?」

「任されよ! まずは腹ごしらえからだな!」


 私は侍に連れられ、すぐそこの長屋に入った。


「お邪魔します」

「ほう?」

「……何ですか?」

「いや、100年前は個人の家があったのだな。

 今は、ほぼ共同住宅でな」

「……それって、成り立つんですか?」

「ん? 不自由はないが」


 最早当然の様に、刀を差し出してきた。

 私は一瞬間をおきつつ、スマホに触れた。

 その瞬間、頭にこの時代の共同住宅なるものの知識が入ってきた。


「入った瞬間に自分の部屋に自動でカスタマイズ!? 同時にオートロックされて体調に合わせて空調・照明を最適化!?

 更に刀に触れたまま冷蔵庫を開けたら食べたい料理ができたてで出てくる!?」

「調理庫な。

 かつては冷蔵保存するだけだったが、今や粉から食材の精製、調理して保存できる」

「こんな快適なお部屋なのにお家賃タダ!!」

「共同住宅だからな。スマホに登録さえすれば誰でも利用でき、未登録でもデフォルトの間取りに住める。

 ほれ、この通り」


 そう言って侍が調理庫から取り出したのは、できたての――。


「なんで味噌汁と焼きおにぎりなんだよおおお!?

 もうちよっと未来的なもん出せよ!!」

「落ち着け。未来的なもんとは何だ?」

「そりゃあ、ほら!

 七色に輝くスープとか!

 クリスタルな寿司だとか!」

「……おぬし、それ食いたいと思うか?」

「思う!!」

「……思うのだが。

 それ、未来とか関係なくはないか?

 ただの、おぬしの願望であろう?」

「いや……でも!」

「まあ、食え」


 私は侍から渡された焼きおにぎりを貪り食った。


「チクショー! うまい!」


 味噌汁をかっ込み、腹がふくれると悲しいかな冷静になった。

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