第3話 ちゃんと未来だった!

「江戸!?」


 江戸の町が広がっていた。

 やはり私は、江戸時代にタイムスリップをしてしまったらしい。


「なんてこった! せっかく未来に来たと思ったのに!!」

「何を言うておる? ここは江戸ではないぞ」


 確かに、ここは江戸――私の時代では東京都にあたる地名ではないだろう。

 私が言いたいのは、時代劇で見た江戸の街並みの様な光景が眼下に広がっているということなのだが、江戸時代の侍に「あなたは江戸時代の人ですか?」と尋ねたところで意味不明だろう。


「確かに、この町はものではあるがな」

「!?」


 今、聞き捨てならない事を言った!


「それはどういう――」

「ここはそなたの時代より、100年後の日本だ」

「な!? なぜそれを……!?」

「何故といわれても……、そうか。

 確か百年前は違ったか?」

「何が……」

「スマホ」


 そう言って彼は太刀に手をかけた。


「ちょっ!?

 まさか斬り捨て御免!?」

「まさか。

 これはこの時代のスマホよ。

 某、成りは侍だが、流石に帯刀は許されておらん」

「スマホ!? その刀がっ!?」

「ほう。

 100年前には無かったか?

 日本人なら太刀型が人気モデルだ。

 鞘型発電機で充電もできるしな」


 ……色々とついていけないが、まあいい。

 頭を整理させて貰おう。


「ええっと、それがスマホなのはわかりました。

 ただ、何でそこでスマホ?」

「……ああ、そうか。

 接触認知機能がなかったのか。

 いや~すまんすまん!

 そなたの時代には無い機能だったのか!

 なら、わからんよな!

 ほれ、柄頭に触れてみろ!」


 ひとりで勝手に納得している彼に不信感を抱きつつ、私は恐る恐る言われた通り刀の柄に触れてみた。

 すると頭の中に知りたい情報が浮かんできた。


「えっ!? えっ!? えっ!?

 なにこれ!?」


 彼がスマホと言ったこの刀は、接触型の携帯端末で触れただけで任意の情報を公的データベースにアクセスし、高度なアルゴリズムで私が知りたい情報を最適化して記憶させてくれるという代物だった。

 ちなみに、目に見えないサイズのものから生物型まであまりにも多種多様な形があるため通称については、私たちの時代からの名残で未だにスマートフォン、略してスマホと呼ぶのが一般的らしい。

 勿論、音声による会話機能も搭載済みのようだ。


「それでスマホと……」

「うむ。得心したようだな」

「ちょっと待ってね」

「おう!」


 ……スマホよると、この時代は間違いなく私が眠りに就いてから100年後の世界。

 様々な技術革新と度重なる変遷を経て、世界各国は最も外国人受けする文化様式で生活しているようだ。

 それが日本では江戸時代だったらしい。


「……成る程。

 それで侍なのですね?」

「左様。

 環境保全から政治的、経済的に最も費用対効果が最適であると、人工知能が導きだした答えよ」

「観光客狙いなのはおろか、住民も好きで生活しているのは驚きでした。

 まさかあなたがアフリカの方だったとは……!」


 ヤスケはニヤリと笑った。

 そうなのだ!

 この侍! 生粋の黒色人種なのだ!

 この時代では風邪薬を飲む感覚で!

 見た目をごく自然に速やかに整形できるのだ!!

 更に!

 このスマホに触れるだけで!

 日本語を完璧に習熟できるのだ!!


「……なんてこった! これが未来か!?」


 まさか全世界が一旦西洋化した後に、各国の最も評判の良い時代の文化にたち戻り、その様式にテクノロジーを落とし込んで人類がより快適に生活しているとは……!

 こんな未来は……! こんな未来は――!


「思ってたんと違う!!!」


 気づけば、私はスマホに触れたまま叫んでいた。

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