第2話 未来だよな?

「――プログラム作動。

 コールドスリープを解除しました」


 目覚めた私は、辛うじてそう聞き取れた。

 普通の寝起きと同じ感覚だが、特に体に異常はなさそうだ。


「すみません。どなたかいませんか?」


 研究所は無人だった。

 廃墟と化したか?

 それにしては設備は綺麗で、設備も問題なさそうに稼働している。

 そういえば、プログラムに基づく作動と音声が流れていた。

 もしかしたら、何か問題が起きて緊急解凍されたのかもしれない。

 だとしたら、私は何年後に目覚めた事になるのか?

 カレンダーの類いを探したが、見つからなかった。

 いや、それよりも、ここがもぬけの殻だとしたら、今後の生活はどうすれば良いのか?

 幸い私の所持品は無事に保管されていた。

 一応、研究所からクレジットカードを数枚渡されていたので、これが使えれば何とかなるかも知れない。

 この状況で外に出るのはかなり不安だったが、私は意を決して研究所を出ることにした。


 研究所はとある郊外の山奥にあったが、何とか歩いて町にたどり着ける距離だった。

 ただ、しばらくして違和感が沸いてきた。

 道がコンクリートで舗装されていないのだ。

 山奥とはいえ、小一時間で下山できる小さな山でいくつか信号機もあったはずだ。

 それが一つも見つからないのは流石におかしくはないだろうか?

 不安が募る中、山を降りきった私は目を疑った。


「侍!? 馬!?」


 馬に乗った侍がやってきた!

 おかしい! 私は確か未来に来たはずだ!

 コールドスリープで過去に遡るなどあり得ないだろう!


「何かお困りか?」


 話しかけられた! どうすればいい!?

 私はパニクっていたが、侍は太刀を抜くでもなく様子を窺っていた。


「よければ村まで案内あない致すが、如何に?」

「えっと……」


 要領を得ない私に業を煮やしたのか、侍は馬から降りて目線を合わせた。

 かなりのイケメンだった。

 頭を剃っていないタイプのちょんまげで、若い頃の織田信長を思わせる眼光鋭く強そうな若武者だった。


「じゃ、じゃあ、よろしくお願いします……」

「では馬背へ」


 侍がそう言うと、馬が脚を折って座り込んだ。

 その淀みない所作は、まるで侍の言葉がわかるかの様だった。

 かなり賢い馬の様だ。


「乗るんですか?」

「不服か?」

「……いえ」


 正直、乗馬経験が無いので戸惑ったが、ここは素直に従った方が良さそうだ。

 私が恐々跨ると、侍は慣れた様子で前方に乗り込んだ。


「いざ」


 侍の一声で馬は危なげなく大人二人分を乗せたまま立ち上がると、これまた淀みなく歩み始めた。

 乗り手を上下に揺らすことなく、想像以上に快適だ。


「名は?」

「イマダです」

「良き名だ。某はヤスケと申す」

「良い名ですね」

「うむ! よろしくな! イマダ!」

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