第3話
◆
兵糧輸送部隊が、襲われたと聞き、儂自ら出陣した。
しかし……、冀州の城はどうなっているのだ? 儂が攻め込むのを予想していたかのように硬い防備で、今だに城一つ落とせないとは……。
しかも、背後を突かれただと?
冀州にそんなキレ者がいた覚えはない。
そんな者がいれば、董卓の退路を断っていたはずだ。あの敗戦もなかったはずだ。
儂は疑問を抱きながら、馬を走らせた。
途中で、兵糧を運んでいた人夫に出会う。こいつらは、武器も防具も持っていない、ただの労働者だ。罪を問うことはできない。罪というのであれば、後衛を買って出だ弟に責任がある。その話は、一度置いておく。
話を聞くと、襲われた場所は、馬で一刻もあれば着く距離だった。
「まだ間に合うな。馬車の跡を追えば、兵糧を取り戻せる」
儂は更に馬を走らせた。
「なんだこれは? 馬車が四方八方に散っている?」
馬車の轍は、揃っていなかった。
そして、橋が燃えていた。もうこの糧道は使えない。他の橋となると、日数的に一日以上の時間を多くかけることになる。
「殿……。もうすぐ日暮れです」
そんなことは、分っている。夜襲は受けたくない。
今ならまだ、陣へ戻れる。
だが、兵糧も諦めきれない。
兵糧を何処へ隠したのか。今判断すれば、まだ間に合うはずだ。
儂は、遠くを見つめた。
そして気がつく。
「……村々から、煙が上がっているな」
「夕食の準備でしょうか……」
そうか……。その手があったか。
「陣へ帰るぞ」「はっ!」
陣へ着いた儂は驚いた。
「陣が炎に包まれているんだが?」
「殿……。見れば分かります」
不味いな。幽州に帰れるだろうか?
◇
「ふう~。成功したな~」
「
公孫瓚から奪った兵糧だが、近隣住民に配った。如何に冀州が肥沃な土地だと言っても、貧困層は何処にでもいる。百万人くらいの人口はいると思う。
『今日中に食べること』を条件にしたら、全ての村が了承してくれた。
兵糧を配り終わった馬車は、南下させる。何処の城でもいいので、不意遭遇を避けて避難させた。これで、轍を辿っての追跡は不可能だと思う。
そんな時だった。
公孫瓚の弟を名乗る人物が追い付いて来た。いたっけこんな奴? 正史だと無名で、演義だと……公孫越? 従弟?
でも、百人程度じゃな~。捜索のために分散したんだろう。目の前の幽州兵が可哀相だ。
馬車の護衛を含めて、私には千人程度の騎兵がいるのだ。
だけど突撃して来た。魚鱗の陣? 錐型? まあ、何でもいいんだけど。
十倍の兵力差だし。だけど~、戦術とか使ってみたかったりした。
「盾持ち騎兵を前に! 左右の騎兵は、退路を断て!」「「おお!」」
私は、部下に命じて、包囲を開始した。戦術って言ったら、包囲戦術……これ一択だよね。ハンニバル尊敬! この時代のこの国には、まだない戦術だと思う。
徐々に削って行く。十倍の兵力差で策もなく突撃して来るなと言いたい。
私は、弩を撃った。
――ピュ……ドス、ドサ
「若君~!」
弟君が落馬した。敵に動揺が見られる。そして、味方の士気は最高潮だ。
こうして幽州兵は、全滅した。
その後、気を効かせてくれた農民が、公孫瓚の陣に火を放ってくれた。せめてものお礼だそうだ。
これは、私も予想外だったな~。万単位の農民が、一斉に松明を投げ込んだら、そりゃ消せないよね~。
その後、離れた場所から公孫瓚を見ていたけど、荷物をまとめて帰ってくれた。
また来るだろうけど、今はこれでいい。
「次の脅威に備えないとな~」
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