第84話 願い

あのお披露目から2年が経った。

何度か優希と一緒に交流をしながら、クロードとモーリスはそれぞれ正妃となる人を決め、一年後には2人同時に式を挙げた。

それから半年後、今度は優希との式を控えていた頃、これまた同時に正妃達の懐妊が伝えられ、優希の式は自然と先延ばしになっていた。

喜ばしい事ではあるが、懐妊した頃から、それに伴って2人と会う時間は当然少なくなっていた。

それを寂しく思うも、これでいいのだと自分に言い聞かせていた。


妃達は子も産めない優希を警戒する訳ではなかったが、あからさまに邪険にはしないものの、優希のとの間には気まずさだけが漂い、壁が隔たれていた。

詳しい条件までは聞かされていないが、愛する者がいるという前提で嫁いできたのだ。

自分達を大事にしてくれて、子もすぐに授かったとは言え、クロード達の根っこは優希にまっすぐと根を張っていた。

それを知っているからこそ、壁は拭えない。

逆に知っているからこそ、優希のいつもの行動力を鈍らせていた。

おおかた、正妃という立場ではあるが、優希の機嫌を損なえば立場が逆転するのではないかと心配しているのだろう。

安易にそう感じ取れるほど、妃達の目は温かくもなく、それでいて冷たくもない、ただ戸惑いと怯えに似ていた。

静かになった邸宅に暮らしていた優希も、持ち前の明るさで何とか暮らしてはいたが、曖昧な立場にいる自分が、このままでは生まれてくる子供の為にも、2人の為にも良くないのではないかという疑問を持ち始めていた。

子が産まれても、子らが安定した成長を見せるまでは、式などの祝い事は挙げれない。

それに、このまま側妃となっても、貴族として育ってきた妃達に比べて、優希は何もかもが足りない。

できることと言えば、相も変わらず国の為の魔法の増進と、神殿での祈りや治療だけ。

妃としての素質も教養も足りない。

その事実が優希の胸を痛めていた。

以前は中身が子供のままでも、突っ走ったままでも2人が受け止めてくれた。

でも、これからはそうはいかない。

足りない分を必死に補おうとすればするほど、うまくいかない不甲斐なさが次第に優希に影を落としていった。


「ウィルさん、俺、しばらくあの森に行こうと思います」

「・・・・お一人で・・・ですか?」

「はい。少しだけ原点に戻って心を落ち着かせてきたいんです。自分から望んだ事とは言え、少しだけ辛いんです」

「・・・・わかりました。すぐにご用意します。あと二月もすれば王子達の子も産まれます。子が産まれればきっと環境は変わるでしょう」

「そうですね・・・何も出来ない俺の立場からしたら、これでいいのだと、これが本来の願いだったと自分を納得させないといけないんですが・・・このままここにいたら、俺、妬んでしまいそうなんです。ウィルさんには、いつも感謝してます。婚約者と発表された日からずっと、俺にマナーの指導とかしてくれて・・・ふふっ、おかしいですね。あの2人よりウィルさんの方が俺に寄り添ってくれてる気がします」

優希はそう呟きながら寂しそうに微笑んだ。

ウィルはそんな優希の姿を痛ましそうに見つめていた。

「きっと数日あそこに戻れば、元気が出ます。前みたいに元気になって、妃達とも仲良くなって、子守担当になるくらいになって帰ってきます。だから、2人には絶対来ないでと伝えてもらえますか?」

「・・・・わかりました」

ウィルの返事を聞いた優希は、よしと声を漏らし、すぐに身支度を始めた。


翌朝、まだ日も上がりきらない時間に、優希は絨毯に乗って、ウィルに見守れながら出発した。

魔塔に仕事の指示を、神殿には少し体を癒してくると手紙を残し、あえて2人には何も残さなかった。

きっと残す事で、自分も未練が残り、迎えに来て欲しいなどと思ってしまうから・・・。

静かに流れる涙を拭いながら、優希は前を見てあの森をひたすら目指した。


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