第83話 お披露目の後

日中のプチパレードが終わると、一旦王城へと戻る。

夜はちょっとしたお祭り状態になるからだ。

貴族達は王城でパーティを、平民達は街並みに特別に設置された屋台を囲んで祝う。

優希達は邸宅で、王城のパーティに参加する為に着替えていた。

結婚式でもないのに、何をそんなに祝うのかと優希は疑問に思っていたが、モーリスの言葉に顔を赤らめる。

「やっと噂の英雄にお目にかかれたのだ。神官たちは神の使いだと崇めていたぞ」

「英雄だなんて・・・・」

「それと同時に私達の婚約者だと広めてある」

「なっ・・・!」

クロードの言葉に今度は青ざめる。クロードの婚約者としては、随分前に発表されていたものの、2人の婚約者というのは正妃が決まると同時に発表される予定だった。


「どうしていつも事後報告なんですか!?俺の気持ちは無視ですか!?」

「ゆ、優希、そんなに怒らないでくれ」

「どうして、いつも相談してくれないんですか・・・?」

しょんぼりと項垂れる優希に、クロードはオロオロと戸惑っているが、モーリスだけはふんっと鼻を鳴らした。

「確かにそこは悪いと思っている。だが、お前はいつも自分の事より俺達の事を優先して、俺たちを説得しようとするだろう?」

「それは・・・・」

「優希、優希が心配している事も杞憂している事も、私達はわかっているつもりだ。だが、たまには優希の気持ちを汲み取って優先したいのだ」

「そうだ。俺達はお前と共に幸せになる方法を選んでいるんだ。お前を悩ませたり、悲しませたりする為ではない」

「・・・・・・」

「私達は心から優希を愛している。優希も私を愛しているだろう?」

「おい、しれっと自分だけ愛されているアピールするな。優希、俺の事も好きだよな?」

「・・・・はい。2人の事が大好きです。だから・・・・」

「なら、もっと欲張ってくれ。愛してくれとわがままを言ってくれ。私達はそれがなにより嬉しい」

「世継ぎの事は考えなかった訳ではないが、俺達もお前の要望を汲んだ。今度は俺達の要望を汲んでくれないか?少しでも早く、少しでも長くお前との時間が欲しいのだ」

2人の言葉に優希はポタポタと涙を流し始める。

そんな優希を2人は優しく抱きしめた。

「私達もようやく我がままが言えるようになったんだ。それも優希のおかげだ」

「そうだぞ?だから、今度はお前がわがままになれ。我慢ばかりするな」

優希は2人に包まれながら、何度も何度も頷いた。

今まで年上だからとか、親がいないからだとか、何もかもを我慢するのが当たり前だと思っていた。

そう思っていたから、何もかもを諦め、手放してきた。

ただ、この世界に残りたい、愛するクロードのそばに、そしてモーリスのそばにいたい・・・それだけは諦めきれなくて、ずっともどかしかった。

だからこそ、2人の気持ちが嬉しかった・・・。


「優希様、お時間です」

パーティが始まってしばらくした後、優希のそばに魔塔の従者がこっそりと耳打ちをする。

優希はその声かけに、わかったと返して席を離れる。

どこに行くのかと2人に尋ねられるが、優希は親指を立ててニカっと笑う。

空を見ててと言い残した優希は、バルコニーから用意されていた絨毯に飛び乗ると、空高く舞い上がる。

その周りには魔法に長けている魔法師達が、同じように絨毯に乗り集まっていた。

円陣を組むように円になり、その中心に優希がいる。

その時、クロードとモーリスのバングルから声が聞こえた。

「クロードさん、モーリスさん、王様を連れてバルコニーに来てください」

その声に促され、2人は王を連れてバルコニーへと出る。

その後ろを貴族達が何事かとついて来る。

「俺、お祭り久しぶりなんです。だから、俺の世界っぽく花火を上げる事にしました」

「花火とは・・・・?」

きょとんと尋ねる王様に、優希は微笑みながら答える。

「本当は火薬とかで作るけど、危険だし、作り方知らないからみんなの魔力を借りました。それに、ちょと手を加えて・・・・」

言葉を途切らせ、優希が手を翳すのを合図に一斉に魔法師達が手を上げる。

すると空に大きな魔法陣が浮かび上がり、そこに向かっていくつもの光の球が上がり、色とりどりに弾けていく。

そして、その弾けた色に合わせて、魔法陣からは何かが降って来る。

「見事だ・・・」

「本当に綺麗ですわ・・・」

「まるで幻想の世界にいるみたいだ」

皆が口々に感嘆の声を漏らし、街の方からは平民達の歓喜の声が聞こえる。

そして、王達の目の前にひらひらと落ちてきたそれを手で受け止めると、王の掌には桔梗が、クロードとモーリスの掌には、それぞれ異なる花弁が舞い降りていた。

掌の花を見て、王達はすぐに舞い落ちるそれぞれの花や花弁を見つめた。

それは、遠い記憶の中にあった思い出の花、王妃が好きだと言っていた花達だった。


「王様、王妃様はやっと長い眠りにつきました。でも、寂しくなったら1人で想い偲ぶではなく、息子達と一緒に思い出を語りながら想い偲んでみてください。

誰かを想い偲ぶのに、立場とかは関係ありません。王様だからとか、父だからと隠す必要も恥じる必要もないのです。愛する人を大切な人達と想い偲び、時々笑顔で思い出を語ってくれれば、きっと王妃様も嬉しくてそばに来てくれるかもしれません。だって、王妃様の願いは、ずっと変わらない。子供達の笑顔と、王様の幸せなんですから」

優希のその言葉に目頭を抑え俯く王、そして、そんな王の肩に手を回す息子達。

その姿を見て微笑む優希。

幻想的な魔法は夜空を彩り、30分ほどで静かに彩りを終えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る