第82話 お披露目
あれから三人で過ごす時間が増えた。
と言っても、それぞれ仕事はあるので、過ごすのは夜だけだったが、それでもほんの少しの時間を惜しむように言葉を交わしていた。
2人の執務室には、毎日の様に妃候補の絵が届く。
優希が2人の婚約者であり、後の第二側妃として既に別宅に住んでいる事、そして、国の英雄でもある優希に一切手出ししない事を条件に、その候補から選んでいく。
優希はその話を聞きながら、昔読んだ転生者の話を思い出していた。
妻に愛さないと宣言する、よくあるパターンだ。
もしくは後宮泥沼パターン・・・どちらも少し面倒な展開だ。
だが、2人はきっと約束通り、妃達に愛情を向けるだろう。
子が産まれれば、それは大きく変わるはずだ。
愛情を受け育った幼少期、亀裂が入り、互いに寂しい想いをしながら過ごした成長期、その時の気持ちが心に残っている2人なら、父親と母親の愛あるあの姿を知っている2人なら、きっと家族を大事にするだろう。
例えその結果が、2人の気持ちが少しずつ優希から離れる事になっても、優希はこれでいいのだと思っていた。
2人を慈しみ、迎える皇妃達を妬む事なく、その子供達に愛情を注ぐ・・・・。
少し・・・いや、だいぶ、寂しい思いをするだろうが、きっと2人は形を変えてでも優希を見捨てる事はない。
だから、欲張らずにただ2人の幸せを願おう・・・そう心奥に決めていた。
三ヶ月後、すっかり回復した優希のお披露目が行われた。
街の神殿前の広場でのお披露目だった。
多くの人に優希の姿を知ってもらう為に、馬車ではなく絨毯が用意される。
周りを配置された騎士が守り、その中央に二つ用意された絨毯には、先頭に王と優希、その後ろにクロードとモーリスが不貞腐れた顔で待機していた。
2人は結婚式も含めてのお披露目だと思っていたらしいが、優希は式を挙げるのは正妃が先だと突っぱね、先にお披露目をする事になった。
ならば、一緒に絨毯に乗ろうと提案したが、優希は王と一緒に乗りたいと申し出た。
「ここ何年も王様は病で王城に籠っていましたから、民である皆さんに元気だと示すいい機会です。そもそも王様の体調不良はあいつらのせいでしたから、それに打ち勝った意味でも一緒に乗ってお披露目しましょう。俺が隣にいることで、俺が忠誠を誓い、共に国を守ると国中に知らせる事ができます」
優希の提案に王も納得し、初めて乗る絨毯に戸惑いながらも、優希に支えられ乗り込む。
「バリアも張りますが、くれぐれも絨毯から身を乗り出したり、落ちたりしないでくださいね」
優希はそう言うと、先にクロード達の絨毯に薄いベールを張り、自分が乗る絨毯に腰を下ろすと、その周りにもベールを張った。
それから、ゆっくりと宙に浮き始めると、騎士団の合図で空へと舞い上がる。
その光景に見に来ていた人々が歓喜の声を上げる。
「優希よ、魔力はすっかり元に戻ったのか?」
ゆっくりと民の頭上を徘徊しながら手を振っていると、王が口を開いた。
「はい。女神様が力を分けてくれました。今は国が平和なので、過分な加護はありませんが、王様達のお役に立てるほどは分けてもらってます」
「そうか・・・色々と恩にきる」
「ふふっ・・・いいんです。王様は僕にとってもお父さんみたいな存在ですから・・・ですが、王様、いくら仲を取り戻したからと言って、少し息子達に甘すぎませんか?」
「なんの話だ?」
「皇妃の話です。せっかく俺が2人を説得して、正妃を娶るように言ったのに、これでは台無しです」
優希の話を聞いて、王はふふッと笑みを溢す。
「そうだな。クロードの事は元々話が出ていたから、その方向で話を進めるつもりでいたが、まさかモーリスまでそなたが欲しいと言い出すとは思わなかった」
「俺も、びっくりです」
「何だ?知らなかったのか?」
「モーリスさんの気持ちは、あの戦闘が始まる前に聞きました。だけど、2人が結託して結婚の話まで持っていくなんて、知らなかったんです。完全に事後報告です」
頬を膨らまし不貞腐れる優希に、王はまた笑みを溢した。
「そうだったのか・・・私は息子達を長い間苦しませてしまった。そのせいか、2人は寡黙に耐えることしか知らん。王族して必要な事かもしれないが、戦いを通して2人が互いを支え、時に微笑み合う姿を見て思い出したのだ。
王妃がいて、その傍に息子達が仲睦まじく笑っている・・・・それを見ながら、私は確かに幸せだったのだ。その笑顔を何年も見る事がなかった。
何より2人が何かを欲する姿は一度も見た事がない。なのに、ためらう事なく真っ直ぐに私を見て、そなたが欲しいと切に願ってきたのだ。折れるしかないであろう?」
笑みを浮かべながら優希を見下ろす王の姿に、優希も優しく微笑み返す。
「王妃様が言ってました。王様は誰より慈悲深く心優しい人だと。そして、家族を心から愛してくれる人だと言ってました。だから、きっとこの先も大丈夫です」
「そうか・・・王妃がそのような事を・・・・」
「えぇ・・・王様、幸せになりましょう」
「そうだな」
王と優希は互いに見つめ合い、ふふッと笑みを溢した。
「陛下・・・何のお話をされているんですか?」
クロードの低い声に優希が振り向くと、その横でモーリスまでが怒りの表情を浮かべていた。
「王様、こういうところは叱ってくださいね」
「そうだな」
優希と王はそう言葉を交わすと、ぶつぶつと文句を言う2人を無視して、民へと笑みを溢しながら手を振離つづけた。
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