第80話 密かな決意
あれから二週間が経とうとしているのに、互いに気まずさが残り、部屋を訪れてこない2人を心配しながら、優希は荷造りを始めていた。
自分が出した答えの結果だと言い聞かせ、余計な事を考えて決意が鈍らないようにとリハビリに没頭したおかげか、すっかり杖なしでも歩けるようになっていた。
それでも尚、会いに来ない2人に寂しく思いながら、このまま黙って静かに出て行こうと決意をする。
ウィルに黙ってて欲しいとお願いしながら、バックを一つ用意させ、クロードがあつらえてくれた服だけをバックに詰める。
そして机から今まで書きつらえたノートを取り出し、それもバックに入れ閉じた瞬間涙が零れ落ちた。
涙を拭いながらバックを持ち上げると、ウィルに付き添われて玄関まで歩いて行く。
外にはウィルが手配していた小さな馬車が止まっていた。
優希はウィルを抱きしめ、ありがとうと口を動かすとゆっくりと馬車に乗り込む。
動き出した景色を見ていれなくなりカーテンを閉め、俯き静かに涙する。
二度と会えない訳じゃないと自分に言い聞かせながら、揺れる馬車に体を預ける。
そう遠くない神殿の場所が、とても遠くに感じた。
「馬車を停めろ!」
後ろから荒々しい蹄の音と怒鳴り声が聞こえる。
その声に何事かとカーテンを開くと、窓の外に馬に跨ったクロードとモーリスの姿があった。
馬車はゆっくりと停車し、ドアが荒々しく開かれる。
「黙って出て行くとはどういう事だ!」
初めて自分に怒鳴るクロードの姿に、優希は目を大きく見開き、パチパチと瞬きをする。
「優希!答えろ!何故、黙って出て行くのだ!?」
優希はたじろぎながら口を懸命に動かす。
(だって・・・2人ともずっと会いにきてくれなかったから・・・)
「だからと言って、勝手に出ていくのか!?それほど私達の側にいるのが嫌なのか!?」
クロードの言葉に優希は首を振る。すると後ろからモーリスが声をかける。
「クロード、落ち着け。俺達もなんの説明もなく、会いに行かなかったのは事実だ。こいつだけを責めるな」
落ち着いた口調ではあったが、明らかにモーリスの声にも怒りが混ざっていた。
「優希、降りるんだ」
今度は声を荒げる事なくクロードが声をかける。
優希は言われるがまま馬車から降りる。
モーリスが邸宅に引き返すように御者へ伝えると、ゆっくりと馬車は方向転換して優希を置いたまま走り出した。
「私の馬に乗れ。帰ってから話がある」
クロードは有無も言わさぬまま優希を抱え、馬に乗せると黙ったまま馬を走らせた。優希は2人の怒りっぷりに、心臓をドキドキと打ち鳴らしながら怯えていた。
何故、ここまで怒るのかわからなかったからだ。
あっという間に邸宅に着き、クロードが優希を馬から下ろすが、優希は顔を強張らせながら小さく震え俯いていた。
クロードはため息を吐きながら、優希を抱きしめる。
「すまなかった。あんなに怒鳴るつもりはなかったのだ。だが、せっかく話がまとまって会いにきたら出ていったと聞いて、どうしようもなく腹が立ったのだ。勝手に決めて勝手に出て行くな。私達の気持ちを置いてけぼりにしないでくれ」
クロードは切なそうな声で優希に語りかける。
優希は小さく頷くと、クロードに促されながら邸宅へと入っていった。
「優希、ずっと来れなかったのは理由がある。王からこの認印を貰うために忙しくしていたんだ」
椅子に腰を下ろすなり、モーリスが内胸のポケットから紙を取り出し優希へ見せる。その紙は2枚に重なっており、そこにクロードとモーリスの名前が記載されていた。
「前例がない事だから父や皆を説得するのに、時間がかかってしまったのだ」
クロードはその紙に書かれた自分達の名前の下に、優希の名前が書かれている場所を指差す。
「お前は今日から俺達2人の第二皇妃となる」
その言葉に優希は訳がわからないと言う表情でモーリスを見つめる。
「2人とも早急に第一皇妃を決める事を約束に、優希を私達の第二皇妃として迎える事を認めてもらったのだ」
クロードの自慢げな言葉に、優希は更に訳がわからないという顔をする。
「あの日、お前に言われてからクロードと話し合った。その結果、俺もクロードもお前を手放さないという結論になった。それで、いろいろ対策を考えてお前が杞憂している事を全て払拭し、尚且つ俺達が納得できて、皆を納得させる方法がこれだったんだ」
「優希の住まいはこの邸宅に決めてある。使用人達も全員このまま引き継ぐ。そして、モーリスもここで暮らす事になる。互いに嫁を取った時点で、住まいを移し、ここへは通うことになる。以前優希が言っていた様に、添い遂げると誓った嫁には愛情を注ぐつもりだからだ。だが、私達は優希に1などと低い愛情を注ぐつもりはない。100で優希を愛し、その愛を少しだけ嫁に分けるんだ。基本の数字は優希が基準で、優希があってこそだ」
2人の言葉に信じられないと言う表情を浮かべ、ぽつりと呟く。
「何やってるんですか・・・」
久しぶりに聞いた掠れた自分の声に驚きながら、どんな粗治療だとため息を吐いた。
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