第76話 奥底にある悲しみ
「モーリス・・・私は、自分の不遇にばかりに囚われて、優希をよくみてやれなかったのかもしれない」
ウィルが出ていった後、ポツリとクロードが漏らす。
「なんの事だ?」
モーリスは問いかけるが、クロードは静かに苦笑いをする。
それからボソボソと話し始めた。
「優希があまりにも明るいから、太陽の陽だまりみたいによく笑うから、優希の心底にある悲しみも寂しさも気づけずにいたのだ。本当は優希だって沢山の不遇にあっていて、その中に寂しさも悲しさもあったはずなのに、それを癒すことも察する事もせずに私の悲しみばかりを見せてしまった。
初めて会った時も1人で寂しかったと大泣きしていたのに、すっかり忘れていた。
私が情けない所ばかり見せていたから、優希はあんなに明るくしていたんだな」
情けないとため息まじりに話すクロードに、モーリスはそれは違うと返す。
「こいつは芯から強い人間だ。不遇にあっても前向きに強く生きている。そして人を思いやれる優しさも持っている。とても強い人間だ。明るく振る舞うのは、その明るさが自分も他人も癒す事を知っているからだ。決して無理に明るく振る舞っていたのではない」
「そうだといいのだが・・・いや、きっとそうなんだろうな。以前、私に人間は日に当たって生きないとダメだと言っていた。光は道標を照らしてくれる、どんな暗闇でも光が当たれば前を向いて歩けるのだと言っていた。私にとって優希の存在が光だと思ったように、優希も私の光になりたいと思ってくれていたのかもしれないな」
「光か・・・そうだな。こいつは俺達の太陽であり月だ。昼間は太陽のように明るく照らし、夜は月の様に暖かい光で照らしてくれる。俺達の道標だ。だから、こんなにも惹かれるのだろうな」
2人は顔を見合わせ、ふふッと笑うとまた優希に視線を戻す。
「クロード、俺はこいつを1人にさせたくない。1人で逝かせない」
「あぁ、私もだ。どんな結果であったとしても、きっと優希も望んでくれている。優希が目覚めたら、私達でこの紙に書かれた願いを叶えてあげよう」
クロードは手にある紙をモーリスに渡し、優希の愛おしそうに髪を撫でる。
「優希、必ず目覚めるのだぞ。私達は信じて待っているからな」
クロードの言葉にモーリスも頷きながら、黙ったまま優希の髪を優しく撫でた。
それから一週間後に熱は引いたが、以前、優希が目覚める兆しは見られなかった。
二ヶ月後・・・・
クロードとモーリスは不思議な夢を見る。
小さな子供が泣いている夢だった。黒髪の短髪、3、4歳くらいの男の子が膝を抱え泣いていた。
クロードが声をかけようとした瞬間、その男の子は今度は背が伸び、12歳くらいの男の子になった。それでも、俯いたまま静かに泣いている。
しばらくすると、また姿が変わり、その姿に2人は目を大きく見開く。
その男の子は優希だった。
以前、見せてくれたこの世界に来る前の優希の姿そのものだったのだ。
その少年はもう涙を流してはいなかったが、どこか悲しげな表情で何かを見つめている。
クロードがそっと名前を呼ぶと、その少年は振り向き、黙ったまま2人を見つめる。今度はモーリスが名前を呼ぶと口をパクパクさせた。
2人は目を凝らして口の動きを読み取る。
(俺は2人の役に立てましたか?)
その問いにクロードがもちろんだと返事をする。その答えが嬉しかったのか、少しだけ笑みを溢す。
(まだ俺を必要としてくれますか?)
今度はモーリスが当たり前だと答えた。すると、少年は満面の笑みを浮かべる。
(俺、帰りたい。2人の元に帰りたい)
その言葉に2人は手を差し伸べる。そして、少年に優しく微笑む。
「優希、帰って来い」
「この手を取るんだ」
2人の言葉に少年は涙を浮かべて駆け寄る。もう少しで少年の手が触れそうになった瞬間、少年は白髪になり涙を流しながら微笑んだ。
そして、その姿は蜃気楼のように歪み、静かに姿を消した。
それと同時に2人は目を覚ます。言いようのない不安と大きく打ち鳴らす鼓動に、ベットから飛び起きると隣の部屋で寝ている優希の元へと駆け出した。
ベットの側に来ると2人は慌てて、優希の頬に手を当てたり、手を握る。
温もりがあった優希の体は急速に冷え始め、寒くもないのに口元から白い息が漏れた。
2人はウィルに医者の手配を頼み、両サイドから優希の体を摩り始めた。
「優希!ダメだ!逝くんじゃない!」
「戻って来い!ここに戻りたいんだろ!?諦めるな!」
懸命に優希に呼びかけるが、その口からは白い息が漏れるだけで返事はなく、体も応える事はなく、ただ時間だけが過ぎていった。
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