第74話 後始末

「優希、大丈夫か!?」

その場に倒れ込んだ優希を心配して、クロードが駆け寄る。

「クロードさん、俺、まだハイなんです。離れてください。まだ、やる事があります」

優希はクロードの手を振り払い、ヨタヨタと歩くといきなり壁を破壊する。

「ゆ、優希、何をするんだ?」

意味不明な行動に、クロードはたじろぐ。

すると、優希はその穴から外へ出ると、空に向かって手を上げた。

その手からは眩い光が放たれ横に広がると、遠くから何かの叫び声が聞こえる。

そして、今度はその光がキラキラと瞬き始めた。

その光はクロードやモーリス、王の体を包み、傷を癒していく。

しばらくの間、その瞬きは続き、静かに光を閉じていった。


優希はどさっとその場に倒れ込むと、か弱い声でクロードとモーリスの名を呼ぶ。

「2人のどちらでもいいので、俺を中まで運んで下さい」

その声に、2人はすぐさま駆け寄るが、俺が担ぐ、私が担ぐと言い始めた。

「あの・・・俺、しんどいんです。そうやって揉めるなら、1人は上半身、1人は足を持って運んでください」

その声に2人はすまないと謝ると、言われた通りに二手に分かれて運ぶ。

宝玉が置かれていた台の前に下ろすと、優希は小さな声で女神を呼ぶ。

「女神さん・・・体から抜いてください」

優希の声に応えるように光が現れ、優希の体から宝玉が抜かれ台へと運ばれる。

(よくやった。これで平和が戻る)

そう女神の声が聞こえて、優希はフルフルと腕を上げ、親指を立てた。

「女神さん、俺、しばらくは休業しますからね。誰が何と言おうと休みますから、俺を呼ばないでください」

(そうだな。しばし休め。そのうちまた呼ぶだろう)

「いやです!長期休暇下さい!」

「優希、お前はさっきから何を言っているんだ?」

「優希、あれなのか?神がまた無理難題を言っているのか!?」

2人の言葉に聞こえてないのかとため息を吐く。ふっと別の光が現れ、優希はにこりと笑う。

「女神さん、ご褒美にお願いしてもいいですか?」

(少しだけなら構わないだろう)

「ありがとうございます。クロードさん、モーリスさん、王様をここに連れて来て下さい」

優希の頼みにモーリスが王の元へ駆け寄り、優希の側まで連れてくる。


「王様、俺は疲れているので、寝そべったままですみません」

「かまわぬ。よくやってくれた」

王がそう言葉をかけると、優希はへへっと笑う。

そして、光の方へ手を差し伸べる。

「女神様がご褒美をくれました。一度だけで短い時間ですけど会ってあげて下さい」

優希が手を差し伸べた方へ顔を向けると、その手にキラキラと光る物が現れ、その光が人の形を彩る。それを見た三人は目を大きく見開きする。

そう、その人の形はラティナの姿だった。

「ラティナ・・・これは夢なのか?」

王は目を潤ませ、そっと手を差し伸べる。

その手が触れる事は出来なかったが、キラキラした光がその手を包む。

「みんなよく頑張ったって言ってます・・・て、俺、通訳ですか?女神さんのご褒美はいつも残念なご褒美です」

優希がブツブツ文句を言うと、ラティナがふふッと笑う。

「母上・・・会いたかったです」

クロードが涙を流し、ラティナを見つめる。

「クロードさんにはいっぱい辛い思いをさせてごめんなさいと言ってます。私が庇いきれなかったせいだと」

「そんな事はありません。母上が身を呈してくれたから生きながらえたんです」

そう言いながらクロードは微笑む。

「モーリスさんもいっぱい苦労かけてごめんねって。王様の事もクロードさんの事も慕っていたのに、辛い役割をさせたって」

「ずっと見ていたのですね・・・母上、俺も本当は母上が恋しかったです。ずっと会いたかった・・・」

モーリスもまた涙を流し、微笑みながらラティナを見つめる。

「・・・・えっ?どうしてですか?」

急に優希が通訳をやめ、ラティナと話し込む。

少ししてからため息を吐くと、言いづらそうに口を開く。

「ラティナさん、もう三人の加護は出来ないそうです。元々三人が心配で未練が残っていたから、女神さんの慈悲で側に居れたそうです。でも、もう心配ないから離れると・・・」

「ラティナ、行くではない。私のそばにいろ」

王はすがる様にラティナを見つめるが、ラティナはゆっくり首を振る。

「王様ももう大丈夫だって言ってます。それに、あの丘で待ってるという約束は必ず守るそうです・・・・え?それも俺が言うんですか?」

優希は眉を顰めラティナを見るが、ラティナはニコリと微笑む。

「はぁ・・・王様、私にプロポーズした時の花を持って会いに来て下さいねって。その意味を今も私は胸に刻んでます。心から王様をお慕いしていますって」

「あぁ・・・そうだ、桔梗の花だったな。そなたのように可憐な花だ。約束しよう。今度会う時は必ず持って行くと」

王の言葉を聞き、ラティナは嬉しそうに微笑むと、キラキラと瞬き光の粉となり、三人を包むと風に吹かれる様に空へと舞い上がっていった。

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