第73話 戦いの行方
「ゼェ、ゼェ、絨毯で来れば良かった」
久しぶりに全速力で走った優希は、宝玉の部屋に着くなり息を切らす。
目の前では戦闘を繰り返す騎士達がいるが、扉は開かれていた。
ゆっくりと足を進め、部屋のドアを開けると中では膝をついているクロードと、髪の毛を掴まれているモーリスの姿があった。その横には王が鎖に繋がれていた。
「早かったな・・・あの役立たずめ・・・・」
「お前・・・あの時の・・・」
目の前にいたその男は、以前、優希を拉致し操った男だった。
「そうだ・・・久しぶりだな」
「あの時、死んだんじゃ・・・」
「残念だったな。あの時、光が放たれて迫ってきた時、移動呪文を唱えていた。かなりの痛手を負ったが復讐できる機会を得れれば、そんな事はどうでもいい」
男は片手でフードを取ると、顔半分が火傷に覆われていた。
「少しだけ、そこで大人しくしていろ。こいつらの命が大事ならな」
そう言って、掴んでいたモーリスを払いながら、王を繋いだ鎖を引くと、引っ張られた反動で王の体が倒れ、ズリズリと引きずられる。
「さぁ、この宝玉の封印を解くんだ」
「断るっ!」
王の返事を聞いた男はすぐに炎をクロードへ放つ。クロードは剣を構えて受けるが、その剣はすぐに跳ね飛ばされ、炎が足に当たる。
「クロードさん!」
「大丈夫だ・・・モーリス、動けるか?」
「あぁ・・・」
モーリスは剣を支えに立ち上がる。優希は2人の間に駆け寄り、手を当て治癒魔法をかけようとするが、男がすかさずまた炎を放つ。
優希は氷の盾を作り、弾き飛ばすが、炎の強さでその盾も一瞬にして消える。
人質がいる以上、迂闊に手が出せないと躊躇していると、部屋の隅に木の根っこか這っているのが見えた。
「クロードさん、モーリスさん、30秒だけ俺に時間をください」
優希はそう言い残すと小さな声で呪文を唱え始める。
クロード達は優希を庇うように前に立ちはだかる。
「お前達では相手にならん。邪魔立てせずに、そこを退け。少し痛めつけてから宝玉を頂く」
「はっ、俺達はこいつを守る為にいるんだ」
「同じく。父上、少しばかりお待ちください」
「全く・・・早死にしたいようだな」
男がまた手の平に炎を溜め込む。それが大きな玉を形成していく。
クロードとモーリスは剣に氷を纏わせ構えていると、どことからともなく大きな地響きが聞こえ、建物が大きく揺れ始めた。
「王様、少しくらい壊してもいいですよね?」
優希はニコリと笑うと、指をクイっと曲げる。
その瞬間、部屋の隙間から這っていた根っこと、その木の蔦らしきものが部屋中に入ってくる。
更に優希が呪文を唱えると、今度は地面が揺れ、下から木の根が盛り上がってくる。
男がバランスと崩した隙を見て、優希はすかさず風を巻き上げ、男を後ろへと吹き飛ばす。
「クロードさん、モーリスさん、王様の保護を!」
2人は頷いて王の元へ駆け寄るが、優希は宝玉の元へと駆け寄る。
「女神様、ラティナ様、力を貸して下さい」
そう言って宝玉を掴むと、自分の胸に押し当てる。
「そなた・・・今、何と・・・」
王が辿々しく尋ねるが、胸に押し当てた宝玉が眩く光り、その声はかき消される。
その瞬間、誰もが目を開かせ、その光景に魅入る。
優希の後ろには女神が、宝玉の前にはラティナ、前王妃の姿があった。
女神が優希の体を包み、ラティナが宝玉に触れ包み込む。
そして、ゆっくりと優希の体へとその宝玉が吸い込まれていく。
うめき声をあげながら、優希は体へと押し込むと息を上らせ、男へと体を向ける。
「これで、俺を倒さないと手に入らなくなりました。どうします?」
優希の言葉にわなわなと体を振るわせ、怒りに満ちた視線を向ける。
「クロードさん、モーリスさん、王様を連れて端っこに避難してください」
「優希・・・?」
クロードの呼びかけに優希はニタリと笑う。
「俺、今、ものすごーくハイになってるので、少し荒っぽくなるかもしれません」
不敵な笑みを浮かべる優希を見て、クロードとモーリスは慌てて王を非難させる。
男はすぐに立ち上がり、炎を何度も放つが、優希は風を起こしそれを難なく弾き飛ばす。
そして、氷の槍を作ると男にめがけて放つ。
ゆっくりとジワジワ差し迫りなががら、槍を作っては放ち、最初は足を、そして手を壁に括り付ける。
男の目の前まで来ると、またニヤリと笑う。
「俺、さっきまで初めて人を殺めて、怖くて体が震えてたんですけど、不思議と今、怖くないんです。何故だか、わかりますか?」
「・・・くっ」
「あぁ・・痛くて答えられませんか?答えは簡単です。あなた達がクロードさん、モーリスさん、そして王様を苦しめたからです」
優希はそう言うと、刺さっている槍をグリグリと押し込む。
男は叫び声を上げるが、優希は冷たい視線を向け、男の額に手を当てる。
「俺が一番怒ってるのは、ラティナさんの命を奪った事です。あんなに心優しく花の様に笑うラティナさんを殺めた事です。だから、あなたは罰を受けないといけません。俺はここで根源を根絶やしにします」
「そなた・・・ラティナに会ったのか・・・」
優希の話に王は涙を流す。王の言葉に今度はニコリと微笑むと、いつでも貴方方の側にいらっしゃいますと告げ、手に力を込める。
その手からは光が放たれ、男の体をジリジリと焼き尽くすように熱を帯びていく。
男は苦しみもがくが、優希はその手の力を緩めず、男の目を見つめる。
「これは女神様の浄化の力です。これで貴方は逃げる事も復活する事もありません。永遠に消え去るのです」
その言葉を最後に呪文を唱えると、男は断末魔のような叫び声を上げ、体が灰になり飛び散った。
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