第72話 黒い者達
一斉に降りてきた黒ずくめの人間達を見て、優希はわぉ・・・と小さく呟く。
悪役そのものの姿に、ちょっとかっこいいと思いながらも、手の平に炎の塊を出す。そして呪文を唱えながら黒い塊に向かって一気に放つと、今度は風を起こし、空へと上がる。
騎士達のブーツに風の魔法石を埋め込み訓練はしたが、どうしても空中戦は不利だと判断した優希は、とにかく下へ叩き落とせば、あとは下で戦ってくれると判断し、次々に炎を放っては放っていく。
下は下で、魔物とも戦っていたが、優希は容赦なく叩き落とし敵を増やしていく。
そうしている内に、大きな塊が優希を捉え、一瞬のうちに間を詰めてきた。
「お前か?憎き魔導士は・・・」
「多分、俺ですね・・・でも、黙ってやられるつもりはありません」
優希は手に浮かべた炎を撃ち、距離を取ると手を空に掲げる。
「俺、貴方方が前回手こずらせたおかげで、今までの本とかアニメの知識をフル動員させたんです」
「何の事だ・・・?」
「まずは、コレ」
そう言って、手に溜めた雷を平たくすると、一気に放つ。
男は壁を作り受け止めるが、その円盤の様な塊がノコギリのようにバチバチ音を立てながら切り刻んでいく。
「ぐぅ・・・気候も操れるのか・・・?」
「残念ながら、少しだけです。次、行きますよ」
今度は手の平に氷の塊をいくつも浮かべ、呪文を唱えると尖った槍の先の様な形に変え、宙に浮かぶ。
「これは、前回、クロードさん達を傷付けた貴方達の技です」
そう告げた後、指をクイっと曲げると、氷は男の頭上へ移動しその勢いのまま頭上へ降り注ぐ。
目の前のノコギリに集中させていた所為か、男は全部を避けきれず、体に刺さると低い唸り声を上げた。
「おかしいですね。反撃しないんですか?」
優希の煽りに男が叫びながら、炎の剣を作り優希へと向かってくる。
優希は舌打ちしながら水の竜巻を巻き上げる。
そして、切り掛かってきた剣に向かってその水を巻き付かせる。
「バカめ。その程度の水では消えん」
男は水を切り裂き、大きく一振りすると火が伸び優希のマントを掠める。
優希はあちちっと言いながら、マントを叩くともう一度水の竜巻を起こす。
先ほどと同じように剣に絡み付かせると、ニヤリと笑って指をパチンと鳴らす。
すると、剣を包んでいた水が一気に凍りつき、徐々に溶ける氷に被さるように水と氷が交互に重ねられていく。
次第に重みを増していくその剣からは炎が消え始め、優希は腰紐を引き抜くと風を使って腕を縛り上げる。
男が剣を落とした隙を見計らって、後ろに回り込むと腕を首に絡め、ジリジリと首を締め上げる。
「ボスはどこにいるんですか?貴方の目的は足止めですよね?」
優希はグッと更に力を込めると、そのまま下へと降下する。
そして、そばにいた騎士に魔法具で捕まえる様に指示を出す。
魔力を封じ込める手枷だ。
その手枷をはめた後、俺では力が弱いからとその騎士に足で動きを止めて欲しいというと、言われるがまま騎士は寝そべっている男の背中に足を乗せる。
「さて、尋問の時間です。ボスはどこですか?」
男は呻き声を漏らしながら、優希を睨む。
それから口をモゴモゴさせると、ガリッという音を立て何かを噛み砕く。
男はゴホッと咳き込んだ後、口から血を流しそのまま生き絶えた。
それを見た優希は青ざめた顔で、男と騎士の顔を首を上下させながら見る。
「優希様、おそらく毒薬です。差し歯の中に毒薬を仕込んで、口封じで自決したんです」
「あ・・・どうしよう」
「どうしたんですか?」
「仕方ないとわかっているのだけど、俺・・・俺、人殺しちゃったんですか?」
「優希様?」
「あぁ・・・俺、トドメを刺すのが怖くて、それで下に叩き落としてたんです」
「だから、あんなに降ってきたんですね・・・優希様、しっかりして下さい。こいつは自分で命を絶ったんです。ですが、優希様、貴方に勇気を出して頂かないと、この国は滅びます。お願いです。しっかりしてください」
騎士にそう励まされ、コクコクと首を縦に振る。
その時、通信機から宝玉の間に敵が現れたとの声が聞こえ、優希はすぐ行くと言葉を返すが、体が震えて止まらない。
「優希様、勇気を出すんです」
騎士の言葉に優希はふふッと笑う。
「何か、ダジャレみたいですね。でも、今ので力が抜けました。ありがとうござます」
優希はニコリと微笑むと、まだ震えている足をパンパンと音を立てて叩く。
「よし、行きますか・・・あ、ちなみに俺の名前は優しくて希望に溢れる子になるようにって施設長が付けてくれたんです。今は優しさは要りませんが、みんなの希望になります」
そう言って優希は城の中へと走り出した。
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