第70話 突然の告白

「そろそろ帰りましょうか?」

優希は2人にそう声をかけると、笑顔で頷くクロードとは裏腹に、俯き考え込むモーリスがいた。

「クロード、いいか?」

その言葉の意味を知るクロードは一瞬黙り込むが、小さくため息をついて頷く。

2人のそのやりとりを訝しげに見つめる優希は、なんの話かと尋ねた。

「優希、お前が体内に珠を入れ寝込んでいる間に、クロードと話し合った事がある。聞いてくれるか?」

真面目な顔をして優希を見つめるモーリスに、優希は小さく頷く。

「もうすぐ戦いが始まるのなら、今が伝えるタイミングだと思っている。優希・・・俺はお前を愛している」

「えっ?」

モーリスの突然の告白に優希は固まる。

クロードの方へ目をやると、苦笑いしながら優希を見つめ返す。

「私はだいぶ前から薄々気付いていたんだ。だが、モーリス自体も自覚していなかったし、私も優希を取られるのが怖くて何も言わないでいた」

「はっ?」

優希の口からは単調な言葉が繰り返し出る。

まるで何を言われているのか、わからないという顔だ。

「お前がクロードを想っているのはわかっている。だから、最初はシラを切って何も言わずにいるつもりだった。だが、お前が何度も危険な目にあってる姿を見る度に、本当は何度も気持ちを伝えれば良かったと自分の中で繰り返し後悔していた。お前達の間に割り込むつもりも、クロードから奪うつもりもなかった。

ただ伝えたいと思っていた。クロードもそれを後押ししていたからな」

「えっ?クロードさん?」

「すまない。だが、優希を好きになって、私もこんなに溢れる気持ちがある事を知った。どんなに蓋を閉めても、新しい大きな器を用意しても溢れこぼれ落ちるんだ。その溢れ出す想いを伝えられないモーリスの気持ちも痛いほどわかる。

私は優希を譲るつもりはない。だが、優希も知っての通り、モーリスには次々と縁談が来ている。今まで重圧を背負ってきたモーリスに、その責務も乗せ、人を、優希を好きな気持ちを痛いほど押し込めて欲しくなかったんだ」

クロードが話終わる頃には優希の単調な返事は消え、俯き黙り込む。

優希にもわかる気持ちだったからだ。

「でも・・・俺はクロードさんが好きです。だから、どうする事もできません」

小さく呟く優希に、モーリスはわかっていると返す。

「だが、俺はまだ頑張ってもいないのに、簡単に切り捨てる事ができないんだ。少しでいいんだ。俺にも努力する機会をくれ。頑張ってもダメな時は潔く諦める」

「でも・・・それじゃあ、モーリスさんが辛いままじゃないですか」

「いや、それでいい。その方がきっと諦めやすい」

そう答えるモーリスの表情はとても穏やかで優しい笑顔だった。


沈黙のまま帰宅した優希は、長椅子に腰を下ろしながら、悩んでいた自分が馬鹿らしいと思うほど、目の前の光景を冷めた目で見つめていた。

目の前では、誰が優希と同じ部屋を使うかでクロードとモーリスが揉めていた。

「私が婚約者なのだから優希と一緒に部屋を使うのが道理だろ?何なら、一緒のベットを使うぞ」

「それは卑怯ではないか?自信ありげに受けて立つと言いながら、結局は自信がないのか?俺にも努力をさせると言っただろう?」

「確かに、好きでいるのも努力をするのも認めはしたが、協力するつもりは一切ない。それに、モーリスは今の所10の内、精々1あるかどうかだ。そんな奴に私が負けると思っているのか?」

「何だと?それはお前基準だろ?とにかく、毎日お前は独り占めしているんだ。たまには弟に譲れ」

大きな声で威嚇し合う2人に、優希は大きなため息を溢す。

別の意味で頭が痛くなり、こめかみを抑えながら一向に終わる気配のない2人に向かって、指を立て呪文を唱える。

小さな風を起こし間に入るつもりが、まだ制御できていない優希の魔法は大きな風の塊を作り、2人に間に割って入ると強い風に吹かれた2人はよろめき、膝をつく。

「あ・・・ごめんなさい。小さな風を起こすつもりだったんです・・・」

急に膝をついた2人に慌てて謝るが、すぐに顔を顰めて小言を漏らす。


「2人ともいい加減にしてください。外までまる聞こえです。まるで兄を取り合う子供みたいですよ。王子2人が何をやってるんですか?それに、俺は久しぶりに魔法使ってクタクタなんです」

呆れた声で話す優希に、2人はすまないと項垂れる。

「はぁ・・・しょうがないですね・・・」

ため息混じりに呟いた優希はまたこめかみに指を押し付ける。

「少し狭くなりますが、今日は三人で寝ましょう」

優希の提案に2人は揃って顔を上げる。

「どの道、いつ奇襲が来るかわからないんです。それを考えれば、俺達はなるべく近くにいた方がいいです。明日、ウィルさんに頼んで、ベットを増やしましょう。いいですか?今日は兄弟として三人で寝るんです。少しでも変な事をしたら、この制御が効かない俺の魔法でお仕置きしますからね」

優希は2人の目の前で指を立て、小さな子供に言い聞かせるかのように睨みを効かせ話すと、2人は黙ったまま頷く。

「さぁ、もう着替えて寝ましょう。あ、俺の着替えはウェルさんにお願いします。クロードさんは今日はモーリスさんと着替えてください」

「そんな・・・」

「お前、着替えまで手伝っていたのか?」

「当たり前だ!私は優希に一番近い人なんだ。それに、全面的に支えろと言ったのはモーリスではないか」

「・・・・そんな言葉は忘れた」

「いい加減にしてください!」

また始まりそうな言い合いに、優希は声を荒げる。

「まだやるつもりなら、2人とも隣の部屋の長椅子に眠らせますよ!」

怒りを込めた声に2人は黙って、着替えに向かった。

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