第67話 みなぎる魔力

あれから二日ほどで優希の熱は下がったが、クロード邸に戻る前に体内の珠を取り出し、女神に祈りを捧げないといけないと優希が伝えてあった為、優希が寝ている間に珠を封印する準備が進められていた。

優希の熱が下がり、目覚めてすぐに王城からは大勢の護衛と神父達が神殿へと集まる。

熱は下がったとはいえ、体の傷はまだ癒えていない。

だが、優希に時間がないと急かせれ、クロードとモーリスに体を支えられながら取り出す準備を始める。

入れる時はあんなに苦痛を味わったのに、出す時はさほど痛みを感じずすんなりと取り出せたが、急に体の重みをとった優希の体は、自分の体を支えきれないほど困憊していた。

一時間ほど休んでみたが、なかなか戻らない体力は魔力が枯渇しているからでは無いかと判断され、今度は祈りの準備が始まる。

密かにクロードとモーリスの間で、どっちが優希を抱えて女神像の部屋に行くかと一悶着があったが、人前なのもあり、婚約者であるクロードが運ぶことで折り合いがついた。

悔しそうな表情をするモーリスとは裏腹に、クロードは満面の笑みで意気揚々と優希を抱き抱え、部屋へと足を進める。


部屋の中央まで来ると、優希を座らせ、今度は2人で双方から支える。

優希は祈る為の腕も動かせず、ただ支えられながら目を閉じる。

代わりに優希の周りでは大司祭と神父達が祈りを捧げる。

すると女神像がゆっくりと光り始めた。

(人間達よ、今までよくやった)

突然聞こえる声にクロード達は目を見開く。

今まで大司祭と優希だけに聞こえていた声が、周りの者達にも聞こえたからだ。

(我はこの者のおかげで力を取り戻した。これからこの者に我の力を分け与える。枯渇している状態から魔力を一気に注ぐ故、少し負担が生じるが心配ない。元々この者には受け入れる力がある。それを信じよ)

そう言い放つと、一筋の光が優希へと注がれる。

その光は優希の体を包み、優希の髪を揺らしながらキラキラと瞬いた。

ほんの数分の出来事だったが、青ざめていた優希の頬に赤みが差し、それをみたクロードとモーリスは安堵のため息を溢す。

そして、注がれていた光が消えると、クロードは女神像に向かい口を開く。

「神よ。これからも優希には苦難が訪れるのでしょうか?」

クロードの問いに答えるように光が揺れ、また声が聞こえる。

(我の力が戻った事で、悪の者達が焦っている。この者に魔力が戻った事で、狙われるのは必須。そして、秘宝もまた狙われる)

女神の答えにクロードとモーリスは眉を顰める。

そして今度はモーリスが口を開く。

「優希はこの世界の者では無いのに、何故、そこまで優希に試練を与えるのですか?」

(それはこの者がもった宿命。そして、それを渇望したのはこの世界であり、それを受け入れ、ここで生きたいと望んだのは紛れもなくその者だ。

この者の汚れなき魂がお前達を救い、無限に力を受け入れられる体の中に力を持つことで、この世界を救うのだ。

この世界は平和に見えて悲しみと憎悪に蝕まれていた。だからこそ、その者の魂を、力を必要としていたのだ)

女神の言葉にクロードとモーリスは顔を歪める。

その間にも光はゆらめき言葉が繋がれる。

(元より悪の者達が呼ばなくてもこの者はここへ来ていたはずだ・・・。

本来ならもっと早くに見つける事ができるはずだったが、ここに来たばかりのこの者は力が弱かった。1人でいた事で心に悲しみの影を持ち、その輝きを隠した。だが、お前達王家の者が見つけたのも必然、王城へ入る事も必然だったのだ。

この国を、この世界を支えるお前達が一番この者を渇望していたからだ)

「私達が優希を苦しめているのですか?」

弱々しく尋ねるクロードの頬に温かいぬくもりが触れる。

目をやれば、それは優希の手だった。

震える手を伸ばし、優希は微笑む。

「言ったはずです。俺は苦しめられているのではなく、幸せだと。俺はクロードさんと出会えた事を必然と言ってもらえて嬉しいんです。そして、モーリスさんに出会えた事も。それから2人に、王家やこの世界に必要とされていると知って心底嬉しいんです」

クロードの頬に添えた指先で優しく摩りながら笑うと、パタリと腕を落とす。

「優希!」

慌てるクロード達にまた女神が語りかける。

(体を馴染ませているだけだ。この者の愛は深い。その愛の深さが力を受け入れ、この世界を癒す。だが、この者の力は自分自身には使えない。それが何を意味するかわかるな?

この者を想う気持ちがあるのであれば、この者を支え、心から信頼し、力を分け与えるのだ。決戦は近い。王家の絆を、この者との絆を深く結べ。それが出来なければ、この先に待つ未来は、この者の死とそれによってのこの世界の絶望だ)

そう言い残すと光はゆっくりと消えた。

最後の言葉がクロードとモーリスの胸を締め付ける。

それは今後、大怪我をしても優希は自分で治す事は出来ないから、下手をすれば簡単に命を落とす可能性があると言う事。

2人の脳裏に以前、命をつきかけた優希の姿が思い出される。

自分達の悲しみが優希を呼び寄せた。

それなのに、苦痛を伴う試練を嘆く事なく、自分達の為に受け入れ、それを幸せだと口にする優希を、今度は自分達が救って守ってやらなくてはいけない。

クロードとモーリスは互いに目を合わせ頷くと、優希を連れ、クロード邸へと戻った。

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