第66話 決戦に向けての一歩

「わぁ・・・見事な白」

鏡で自分の姿を見ながら優希はポツリと呟く。

側で見ていた2人は、ショックを受けるのでは無いかとハラハラしながら見守っていた。

「何かで読んだ事があります。人ってあまりにも衝撃的な事が起きると、稀に髪が抜け落ちたり、白くなるって・・・」

髪を撫でながらそう呟き、ニカっと笑う。

「でも、抜け落ちなくて良かったです。抜け落ちたら流石の俺でも泣いてました。白髪か・・・意外と似合いますね」

「優希・・・」

ショックを受け過ぎて、わざと明るく言っているのかと心配するクロードに対し、モーリスは呆れた声を漏らす。

「どこまでボジティブなんだ。嫌じゃないのか?」

「ん〜確かにパッと見、痛ましく見えるかも知れませんが、俺の世界ではわざと白髪や白銀に染める人もいましたから、別にオシャレだと思えば平気です。それに俺はまだ若いから老人にも見えないでしょ?、いっその事、このまま髪を伸ばせば、少しは魔法使いっぽくなりますかね?」

きょとんとした顔で尋ねる優希に、2人はため息を溢す。

「優希、以前も言っていたが、優希の世界にはそんなに色んな色をした髪型の人間がいるのか?」

「はい。クロードさんみたいな赤、緑や青、ピンクもいれば、二色入れる人もいますよ」

「・・・どんな生き物だ」

モーリスは眉を顰め、ゲテモノを見るかのような眼差しをする。

「それがオシャレなんです。自分の好きな色で自分を自己表現する。あちこちピアスしたり、体に模様を描いたり、服の趣味もそれぞれで、男でも化粧をするんですよ。自分らしく自分の好きなように人生を楽しんでるだけです」

笑みを溢し、そう答える優希を見ながら2人は俯き寂しそうな表情をする。


王族として生まれ、いろんな事に縛られ、好きなように人生を楽しむなどした事がない2人には、未知な世界だった。

王族でなくてもこの世界で貴族以上の身分に生まれれば、自由には生きられない。

結婚ですら、ままならないのだ。

いつまでも俯いたまま2人に、優希は声をかける。

「2人はいろんな物に縛られて生きてますが、少なくても選択をする事は出来ます。例えばこれを食べたいとか、そばにいてくれる仲間はこの人がいいとか、これから先の未来も。その選択がいいものばかりでは無いし、それに伴う責任も大きいけど、選択をする・・・それは王族だからできる事です。そうでない人達は選択もできません。選ぶ枝分かれが無いからです。一本に続く道を歩むしか無いんです。そう考えると、まだ2人はラッキーだと思いませんか?これから選んでいけばいいんです。自分が幸せになる選択を」

優希の言葉に2人はゆっくりと顔をあげる。

「大丈夫です。自分を信じて、自分が選んだ人達を信じて進めばいいんです」

笑顔で話す優希に2人も自然と笑顔が溢れる。

それを見た優希は満面の笑みを浮かべた。


「さて、その前に俺を立たせてください」

急な申し出に2人は困惑するが、言われるがまま手を取り優希の体を起こす。

ゆっくりとベットの端へ体を寄せると、両脇から支える様に優希を立たせる。

「いいですか?2人とも。ゆっくり、本当にゆっくり手を離すんですよ?」

「優希、何をする気だ?」

心配そうに見つめるクロードに優希は大丈夫と答えると、自分の足元を見つめる。

「俺、女神様を捉えてる物を追っ払いに行ってたんです」

「・・・それもお告げか?」

少し怒りの混ざった声でモーリスが尋ねると、優希はコクンと頷く。

「少し無茶はしましたが、綺麗に払うことができました。これで、女神様の力は戻ったはずです。その時に女神様が言ってたんです。目覚めた時、まずは足を治してくれるって。それから体内の物を取り出して、使い切ってしまった魔力を戻すって・・・」

優希は恐る恐る足を前に出す。

まずは右足、それから全く動かなかった左足に意識を集中させ踏み出す。

「わっ、見てください!動きました!今までピクリとも動かなかった足が、動きました!」

歓喜の声を上げる優希と、その光景を目を丸くして見つめる2人。

「いいですか?これからですよ?ゆっくり離して下さい」

言われるがままゆっくりと優希の手を離す。

プルプルと全身を震わせ、今度は左足から前に出す。

まだ少し擦るが、それでも足を持ち上げる事ができる。

次は右足、また左足と進めるが、2、3歩歩くとすぐに倒れ込んでしまう。

それをすかさず両脇にいた2人が受け止める。

「やった・・・やった!俺、歩ける!」

顔を上げ、目に涙を浮かべる優希を左右から手が伸び、2人が抱きしめる。

「優希っ、優希、良かったな」

「焦ることはない。少しずつ筋力を付けて歩めばいい」

優希と一緒に涙を流す2人の腕を掴みながら、優希も何度も頷き涙する。

最初の一歩、新たな一歩が優希に力を与えてくれた。

女神様、最高!心の中でそう叫び、しばらくの間三人は喜び、泣き続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る