第64話 暗闇の中で
光が全く差さない真っ暗な暗闇の中、優希の体が宙に浮き漂う。
瞼を閉じているのに、目が開かれているのかのようにいろんな場面がスクリーンに映し出されるように流れる。
施設にいた幼少時代、小さい子に邪魔されながらも必死に机に向かい、受験勉強をしている姿、合格発表の時に一緒に泣いてくれた施設長。
入学式は1人での参加だったが寂しくなんかなかった。
高校の三年間、優希には最後の学生生活、とにかく全力で楽しんで、吸収できる物は沢山学んで、卒業と同時に施設を出る未来に備えようと決めていた。
幼少からの友達、中学で出来た友達、高校でできた友達と楽しそうに笑っている優希がいた。
「なんだ、コレ・・・俺、死んだのかな・・・?」
映像を懐かしみ微笑む自分とは裏腹に、冷静に見つめる自分もいた。
次々と現れる映像が走馬灯の様に思えた。
そして、映像は異世界へと来た時へと移る。
1人寂しく暮らした5年間・・・自分の中では色々あったはずなのに、映像は変わり映えしない日々が映し出される。
「あぁ・・・俺、5年もこんなつまんない日々を送ってたのか・・・」
映し出される映像が悲しくもあり、虚しくもあり、胸の中に重い錘がのしかかる。
ふっと場面はクロードとの出会いに変わる。
その映像には楽しそうに笑う自分の姿が映し出された。
その姿にいろんな想いが胸の中にストンストンと落ちていく。
クロードと出会い、邸宅の皆と出会い、モーリスと出会う。
涙もあったけど、圧倒的に笑顔で溢れていた。
早送りの様に流れた映像は、急にプツリと切れて、また暗闇に戻る。
しばらくすると、どこからか優希の名を呼ぶ声がした。
するとスクリーンとは違う形でポウッと灯りが灯る。
そこには涙を流すクロード、眉を顰め項垂れるモーリス、暗い面持ちのウィルや使用人達、心配そうに祈りを捧げる大司祭の姿があった。
どの灯りからも優希の名前を呼ぶ声が聞こえる。
「あぁ・・・起きなきゃ・・・みんなが待ってる・・・クロードさんが泣いてる・・・・モーリスさんも悲しんでる・・・・起きなきゃ・・・帰らなきゃ・・・」
「優希様!」
突然現れた優希の姿に大司祭は声を上げる。
その声に気づいた他の神父達が詰め寄る。
1人は通信機を片手に王城へ連絡を取る。
宙に浮いていた優希の体はゆっくりと女神像の前へと降りてくる。
数人の神父と大司祭は優希の側に駆け寄り、降りてきた優希の周りを囲む。
大司祭が優希の体を抱きかかえ、顔に被さったフードを取るとその姿に全員が息を呑む。
顔には多数の傷、それは体へと続き、手の先は火傷の跡、そして何より皆をおどかせたのは優希の髪の色だ。
黒い艶やかな色はどこにもなく、それとは真逆の真っ白な白髪へと変わっていた。
優希の姿が物語る何かが、大司祭達の顔に不安を煽った。
そして痛ましい姿でもあるその姿に、大司祭は神よ・・・と呟き、一筋の涙を溢した。
優希の体を部屋へと運びながら、医者の手配をする。
一気に教会は慌ただしくなった。
それから王城からは距離があるのに、クロードとモーリスは絨毯を使ってものの数分で教会へ辿り着き、優希の姿に唖然とする。
立ち尽くす2人の脇を医者達が出入りし始めると、部屋は人でごった返す。
「クロード王子、モーリス王子、しっかりしてください!」
大司祭の叱咤に2人は我に帰る。
「どうか・・・どうか優希様の側に来てやって下さい。優希様の手を握って名前を呼ぶのです。お二人は優希様と繋がっている唯一の人なのです。お願いです。気をしっかり持って、優希様の名を呼び続けてください」
大司祭が涙を流しながら2人に哀願する。
2人はゆっくりと歩きながら優希の元へ近づく。
だんだんとはっきりと目に映る優希の姿を見て、クロードが崩れ落ちる。
「ク・・・クロード、しっかりしろ。お前の声が一番届くはずだ。俺も・・・俺も手伝ってやるから・・・頼む・・・しっかりしてくれ」
クロードを励ますモーリスの声も震えていたが、その声にクロードは震える体を何とか支え、優希の側に膝をついたまま擦り寄り手を握りしめる。
モーリスも反対側に回り、優希のもう片方の手を握りしめる。
気づけば2人は涙を流しながら優希の手を握りしめ、その手を額に当て祈りを込める。
「優希・・・優希・・・私はここだ・・・優希の側にいる。頼む・・・戻って来てくれ・・・」
「優希・・・・優希・・・・戻ってこい・・・俺たちの元に戻ってくるんだ」
2人の切なく小さな声が、慌ただしい部屋の中にずっとこだました。
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