第63話 帰還と優希の行方
「どう言う事だ!」
声を荒げて神殿の扉を開けるクロードと、その後をモーリスが険しい顔で入ってくる。
大広場の中央には大司祭と他の神父、護衛で来た騎士達が集まっていた。
「モーリス王子、クロード王子、無事に帰還しましたか!?」
「そんな話はどうでもいい!優希がいなくなったとはどう言う事だ!?」
剣幕を捲し立てるクロードに大司祭はオドオドと話始める。
「それが・・・奥の部屋で祈りを捧げてましたら、神が優希様をしばし預かるとおっしゃられて・・・それからすぐに優希様の姿が消えたんです」
「どこにいるのか、わからないのか!?」
「それが、通信機は確かに持って行ったんですが、連絡が取れないのです」
「くそっ」
並べられた椅子に乱暴に腰を下ろすと、クロードは髪を掻きむしる。
「他に何か手掛かりはないのか?」
モーリスは護衛達に話を振る。
「いえ・・・私達はドアの外で見張りをしていたので、中の様子がどうだったかまでは・・・」
「そうか・・・・はぁ、もう少し早く戻っていれば・・・」
ため息にも似た言葉を漏らす。
「お二人とも今は神を信じて、王城へお戻りください。王も帰りを待ちびているはずです。何よりせっかく無事に帰還しても、お二人が疲労したお姿では、優希様が戻られた時、またお怒りになりますよ」
大司祭の言葉にクロードとモーリスは眉を顰め、互いに顔を見合わす。
クロードはゆっくりと立ち上がり、何かあればすぐに連絡するようにと伝え、モーリスと共に王城へ向かった。
「これか・・・」
優希は真っ白な空間に佇む高いクリスタルの塔を見つめる。
その周りには黒いモヤが巻き付いている。
そっと手を添えるとビリッと静電気の様な痛みを伴う電気が流れる。
その手をさすりながら見上げるとうっすら文字が見える。
優希は目を閉じると呪文を唱え始めた。すると、体の周りを風が包み、体がふわりと浮かび上がり、文字が見える位置まで登っていく。
ゆっくりと目をあけた優希は、小さな声でよしっと呟くとまた手を添える。
身体中にビリビリと電気が走るが、決して手を離さず、刻まれた文字を読み取っていく。
その文字をボソボソと口に出して読み始めると、モヤに対抗するように光が瞬き始めた。
剥がれまいとするモヤとの衝突を体に受けながら、優希は少しずつ降下しながら更に文字を読み上げていく。
その間にも手にモヤが染み付き、優希の体に痛みを与え続ける。
優希の体は痺れからなのか、小さく震え出す。
苦痛が混ざった顔には大量の汗が流れ出す。
もう少し・・・もう少し・・・そう自分に言い聞かせ、文字を辿る。
最後の一行を読み終えた途端、眩しいくらいの光が放たれ、モヤが一気に弾かれる。その衝撃と共に優希の体も地面に叩き落とされる。
指の先は黒ずみ、まるで感電して焦げたような匂いが立ち込める。
優希は息を荒げながら、ポケットから通信機を取り出す。
「だ・・・誰か・・・いますか・・・?」
か細い声に反応する2人の声があった。その声に安堵のため息を溢す。
「無事に・・・無事に・・・帰ってきたんです・・・ね・・・俺・・・は・・・まだ、帰れ・・そうに無い・・・です」
通信機の向こうから優希の名を呼ぶ2人の声がするが、優希には遥か遠くに聞こえる。
「か・・・えるから・・・必ず・・・帰るから・・・・ただ・・・体が・・・痛くて・・・動けない・・・」
絞り出すような声に、大声で向こうから叫ぶ声が聞こえるが、なぜか優希には子守唄の様に聞こえて、瞼が重くなっていく。
「大丈夫・・・・だから・・・待ってて・・・俺・・・今は・・・・凄く・・・ね・・・む・・・」
最後まで言葉は発せられる事なく、優希は目を閉じ、眠りについた。
倒れた時とは違う、深い深い眠りについた・・・・・。
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