第62話 優希、目覚める

「あぁ、もう!わかりましたよ!」

大声を上げ、優希は体を起こす。その声に周りにいた医者やウィル達が驚く。

優希がクロード達の元で癒し魔法を使った事で、二日間高熱を出していた優希は医者達に付きっきりで看病されていた。

「優希様!」

突然起きた優希に周りが一斉に声をかける。

優希は目を潤ませ、側に来た大司祭の服を掴み、訴える。

「大司祭様、あの人は本当に神様なんですか?」

いきなり服を掴まれ驚くが、優希の問いにあの人とは?と問い返す。

「女神さんですよ・・・あの人、人使い荒く無いですか?」

「優希様・・・間違いなくあの方は神です。神に尽くすのが我々の務めです」

「俺は熱心な信者でもないのに・・・」

鼻を啜りながら項垂れる優希に、大司祭は苦笑いをする。


「はぁ・・・大司祭様、今すぐ神殿に行きましょう」

「何かお告げがあったのですか?」

「はい。もうだいぶ馴染んでるから起きて神殿に来いと。それから、俺がやらなきゃいけない事があると・・・うぅ・・しんどい・・・」

半べそで愚痴りながらも毛布を跳ね除け、ウィルに服を頼む。

手伝ってもらいながら着替えを済ますと、通信機を片手にしゃべり始めた。

「あーあー・・・聞こえますか?」

「優希!起きたのか!?」

通信機の向こうからクロードの歓喜に満ちた声が聞こえる。

「はい。起きました。今、応戦中ですか?」

「いや、今、休憩中だ。だいぶ片が付いてきた。今日、見回り終えた後、森の入り口に結界を張って帰還する予定だ」

モーリスの返答に優希は安堵のため息を漏らすが、げんなりした声でこれから神殿に行くと告げる。

「うぅ・・もう少し休みたいのに、女神さんがうるさいんです」

少し大袈裟に半べそをかいた声を漏らすと、クロードが心配そうな声を出す。

「優希、大丈夫なのか?きついなら休んでもいいんだぞ?それくらいで神も怒らないはずだ。私からも怒らないでくれと祈ってやる」

「クロードさん・・・うぅ・・早く会いたいです」

「あぁ・・私もだ。なるべく早く帰るからな」

「お前達・・・この通信は皆に聞こえるんだぞ」

モーリスの言葉に2人は同時にあっ・・と声を溢す。

「とにかく、女神さんが今すぐ来いって言ってるんで、今から行ってきます。護衛さんを何人か連れてってもいいですか?」

「当たり前だ。何人と言わず全員連れて行ってくれ」

「ダメですよ、クロードさん。王城も守らないといけないんですから。そうですね・・・お二人ほど連れて行きたいので、モーリスさんが選んで貰えますか?」

「わかった。側にいる護衛に代わってくれ」

優希は通信機を側にいた護衛に渡すと、ベットから降りようと体をずらし、足をついた途端、ガタンと膝を落とす。

「優希様!」

ウィルの声に通信機の向こうからクロードの声が聞こえる。

「大丈夫です。ずっと寝込んでたから体力が落ちたみたいです」

ウィルの手を借りながら立ち上がると通信機に向かって声をかける。

「うーん・・・モーリスさん、もう1人連れてっていいですか?」

「それは構わないが・・・」

「どなたか、俺をおぶるなり抱っこするなりお願いできますか?」

「なっ・・!」

優希の言葉にクロードとモーリスが同時に声を上げる。

「仕方ないじゃないですか。このままでは俺、神殿に行けません」

「だが・・・」

「優希!抱っこではなく、そうだ!横抱きにしろ」

「えー・・・あれは嫌だって言ったじゃないですか」

「いや、抱っこもおぶるのもダメだ。これは譲らんぞ」

「だから、お前たち・・・」

モーリスの呆れた声と、頑なに反対するクロードに優希はため息を吐きながら、わかりましたと答える。

「そうそう。もしかしたら何かあるかもですが、通信機も持って行きますし、心配はしないでくださいね」

「何かとはなんだ?」

モーリスが低い声で尋ねるが、優希はわかりませんと答える。

「なんかやる事があるらしいんですけど、神殿に行ってみないとわからないんです」

「危険な事か?」

クロードも低い声で尋ねる。

「それもわかりません。俺も体がこんなだから、なるべく危険な事は避けます。そこは女神さんもわかってくれると思います。とにかく行ってきます。2人は帰路も安全に帰ってきてくださいね。早く2人に会いたいです」

「あぁ。優希も気をつけて行くんだぞ」

「無事に帰ってきたら、お前のあの衣装を新しく作ってやる」

「言いましたね!やった!実は魔法使いの服を、魔塔の制服にしたくてデザインを考えてたんですよね。このかっこよさを浸透させて見せます」

モーリスの提案に優希は歓喜して声を弾ませる。その声を聞いた2人は笑いながら楽しみだと答えた。

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