第61話 最初の討伐

「くそっ、キリがないな」

剣を振り翳しながら、モーリスが呟く。

その背にクロードが付き、流れる汗を袖で拭う。

「確かに・・・だが、ある程度は見えてきたな」

「あぁ・・・とりあえず、この一帯を片付けたら結界を張って作戦を練り直そう」

クロードの言葉にモーリスが答える。


優希が言ったように、現地に着いた時にはすでに魔物が湧いて出ていた。

幸い先に送った兵により、近隣の村の民は避難させていたが、魔物の群れは空になった村を荒らしていた。

魔物といっても、元々いた動物や獣が姿を少し変え、凶暴化していただけだったが、戦っている内に剣だけでは太刀打ち出来きないとわかり、魔法と合わせての戦いになり、その事が兵の体力を奪っていた。

だが、次第にどの魔物がどの魔法に弱いのかが見えてきていた。

「魔道士を護衛するんだ!その間に魔導士は結界をはれ!範囲もできるだけ広く張るんだ!」

声を張り上げ、モーリスは部下へ指示を出す。

「護衛班はモーリスに付け!残りは私と結界内の魔物を討伐するぞ」

クロードも声を上げ指示をする。二手に分かれた兵力はそれぞれの場所で力を振りかざす。その戦いは辺りが茜色になるまで続いた。


結界の中に簡易テントを張り、中央に焚き火を付ける。

疲れからかぐったりしている兵達を見ながら、クロードは率先して干し肉を配る。

その間にモーリスは手当を受けている怪我人の確認をする。

2人はそれが終わると焚き火の前に腰を下ろし、干し肉を口にする。

「怪我人より疲労で動けない者が多いな」

「あぁ。私達と違って一人一人魔法の能力もマナの枠も違う。今日はそのまま休ませて、作戦会議は早朝にしよう」

クロードとモーリスは目の前で、項垂れたまま食事をする兵士達を見つめながら、ボソボソと会話をする。

すると目の前の焚き火がバチバチと音を立て、火の粉を撒き散らす。

2人は慌てて立ち上がり剣を取るが、その中から現れた透き通った人影に目を丸くする。


「あちっ!あ、いや、熱く無いけど、気持ちあちぃ!」

訳のわからない言葉を発しながら現れたのは優希だった。

「はぁ・・丸こげになるかと思った・・・」

「お前は・・・・」

モーリスが呆れた声でため息を吐くが、クロードは歓喜の表情を向ける。

「優希だ・・・あぁ・・・疲れが癒やされる」

クロードの笑顔を見て、優希も笑顔で返す。

「お二人とも無事ですか?」

「あぁ。見ての通り無事だ」

クロードは手を広げ、元気だと返すと優希は笑顔で頭を撫でる。

「お前は本当に何をやっているのだ。今、生身で来たら確実に焼かれてたぞ」

モーリスの怒りの混ざった声に、優希は頭をかきながらごめんなさいと呟く。

それから、頬を膨らまし話始める。

「心配だったんです。俺が起きなくても耳元に通信機を置いておくから、毎日連絡くださいって言ったのに、2人ともなかなか連絡くれないから」

「そうだったな。すまない、優希」

慌てて謝るクロードに優希は首を振る。

「怪我がなければいいんです。それより、どうでしたか?」

優希の問いにモーリスが答える。

「思った以上に数が多くて苦戦している。優希の予想通り剣だけでは太刀打ちできない。その事で見ての通り兵士達が疲労している」

「なるほど・・・」

「だが、戦いの中で魔物の特性がわかってきた。だから、明日からの戦いは少し楽になるかもしれない」

「・・・・・よし」

優希の声にクロードが不安の表情を浮かべる。

「何がよしなんだ?」

「2人とも、兵士達を焚き火の側に集めてください」

モーリスも眉を顰め、何をする気だと詰め寄るが優希は早くと急かす。

その声に促され周りの兵士を集めると、優希はまた、あちちと言いながら焚き火の上に立つ。

そしてゆっくりと目を閉じ、小さな声で呪文を唱えると、優希の体からキラキラと光の粉が舞い出し、側にいるクロード達や、兵士達を取り囲む。

「優希・・・これは・・・」

以前にも感じた温かい光にクロードが声を漏らす。

光が全体を包み込んだと同時に通信機から大司祭の声が聞こえる。

「優希様!そちらにいるのはわかってます!何をしているのか分かりませんが、もうおやめ下さい!体が熱を帯びてます!」

その声にいち早く反応したクロードとモーリスが同時に優希の名を呼ぶが、優希は目を閉じたまま呪文を唱え続ける。

数分続いた呪文のあと、優希の姿が揺れ始める。

「あ・・・もうだめだ」

優希の呟きと共に光が一瞬にして消える。

「優希!」

「大丈夫か!?」

2人の声に優希は苦笑いしながら親指を立てる。

「少しは疲れ取れましたか?・・・2人とも無事に、無事に帰ってきてください。恐らくもう少しで片付くはずです。それから、ちゃんと連絡くださいね・・・」

そう言葉を言い残し優希の姿は消える。

傷や疲労感が取れた兵士達は歓喜の声を上げるが、クロード達は通信機で優希の安否を確認していた。

大司祭から息が整ってきていると返事を受け安堵するも、モーリスが真剣な顔でポツリと呟く。

「クロード、さっさと片を付けるぞ」

「あぁ。優希のためにも早く終わらせて、優希の元に帰ろう」

クロードも真剣な顔で返事を返した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る