第60話 出発の時
あれから仮眠を取った優希は、集まった魔導師達と作戦会議を始めた。
クロード達には二日下さいとだけ伝え、部屋に閉じ籠る。
なるべく体から離れない方が離脱に力を使わなくて済むからだ。
その間、クロード達は出発の準備を進める。
部隊の騎士と魔導師達に乗る練習をさせる為に先に絨毯から仕上げ、優希は通信機器と召喚の魔法具の準備を始めた。
徹夜の魔導師達と一緒に力を使っていた優希の体は、落ち着きを見せていた熱を悪化させ、クロード達を心配させていたが、出発したら必ず休むと言う約束をし、何とか2人を宥めていた。
「起きてください」
優希の声に誘われて、モーリスとクロードが目を開ける。
いつか見た夢の空間に2人は顔を見合わせる。
「みんなの前に姿を現すより夢に出る方が楽なんです。俺、少し疲れちゃったから明日、見送りは出来ません」
「見送りなんて気にしなくていい。それより約束を守ってゆっくり休んでくれ」
クロードの言葉に優希は笑顔で頷く。
「夢が楽なら最初から夢で指示を出せば良かったんじゃないのか?」
モーリスの無粋な質問に優希は眉を顰める。
「親しくない人の夢枕で指示ばかり言うなんて、ただの悪夢でしかないでしょ?それに、夢に出れるのは2人だけなんです」
「何故?」
今度はモーリスが眉を顰める。
「だぶん絆があるからだと思います。ちょっと前なら、クロードさんの夢にしか現れる事が出来なかったと思いますが、俺に無関心だと思ってたモーリスさんが、意外と俺に心を開いてくれてるので、こうして2人の前に来れるんです。作戦を立てるには、クロードさんだけではダメですから結果的に良かったです」
「私だけじゃ、ダメなのか?」
寂しそうに呟くクロードの頭を撫でながら優希は答える。
「違うんです。そりゃあ、何もなければ毎晩クロードさんの夢枕に立ちたいですけど、これはこの国の運命がかかった戦いですから、どうしても2人じゃないといけないんです。前に言いましたよね?2人の絆、家族の絆が相手に取っては脅威だったと。だから、今回も2人の絆が必要なんです。そこに俺との絆も・・・」
優希の言葉に2人は黙ったまま耳を傾ける。
「女神さんが言ってました。2人の絆は元々強かったけど、あの事で少し揺らいでいたと。俺が来た事で絆が前の様に力を持ち始めたそうです。それに・・・」
優希は2人の後ろを目を細めてニコリと笑う。
「2人と王様の加護は女神様からじゃないそうです」
「神の加護ではないのか?」
「では、誰の加護だ?お前か?」
2人は不思議そうな顔で優希を見つめると、優希はゆっくりと口を開く。
「元々王家は女神さんの加護を受けるんですが、2人と王様の加護は王妃様から授かってます。俺もこうなるまでは気づかなかったんですが、2人の後ろには王妃様が・・・お母様が寄り添ってます。ブラウンのウェーブのかかった長い髪で、薄い青色の綺麗な目をしてる・・・本当に優しそうで綺麗な人だ・・・」
その言葉に2人は息を呑む。
優希が話す人物の特徴はまさに王妃そのものだったからだ。
懐かしいその姿が2人の脳裏に思い描がれた瞬間、背中に温かい温もりを感じる。
2人は母がそこにいる事を確信し、静かに涙を流した。
「・・・そろそろ俺は戻ります。2人とも決して無理はせず、最初の戦いを勝利してください。いつでも俺が想っている事を忘れないで。それから、王様に王妃様から伝言があるので伝えて下さい・・・・・・・」
2人を抱きしめ、耳元で囁くと優希は姿を消した。
翌朝、出征の挨拶の際、昨夜聞いた言葉を王に伝えると、王もまた手を目に当て涙を流した。
(ずっと側にいるという約束を守れなくてごめんなさい。これからも王として、父として強く生きて欲しい。いつか会う時が来たら、あの思い出の丘で待っている)
自分を責める事なく、約束を守れなかったと謝罪する王妃の優しさに心を打たれ、2人が出会い、何度も足を運んだ王都の街外れの丘に想い寄せる。
そして、2人の息子に必ず無事で帰ってくる様にと力強い声で激励した。
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