第58話 優希からの伝言

あれから三日経ったが、優希の意識は戻っていなかった。

クロード達はしばらくクロード邸宅を拠点にし、政務や会議を行なっていた。

時間が空くと2人で優希の様子を見に行っては、優希の手を取っていた。

高い熱が続くのに息も上がらず、微かに聞こえる寝息とピクリとも動かない体が、生きているのか心配になり、時折、頬に触れたりしていた。

その日も政務が終わると、2人はベットの傍らで静かに優希を見つめていた。


「クロード王子!モーリス王子!」

勢いよくドアを開け飛び込んできたのは、大司祭だった。

「何事だ?」

低い声でモーリスが声をかける。

大司祭はベットの側に駆け寄り、興奮した声で口を開く。

「優希様が神殿に現れました」

「何!?」

2人は声を揃えて立ち上がる。

「どういう事だ?体はここにあるのに・・・まさかっ!」

クロードは慌てて優希の顔に耳を近づける。すると微かに寝息が聞こえる。

「違うんです。実体はないんですが、意識だけを飛ばされたようで、女神像があるあの部屋に現れたんです!」

「それで、優希はなんと?」

身を乗り出してモーリスが尋ねると、大司祭は息を整え、優希の言葉を伝える。

「もうすぐ西の森に最初の魔物が現れると・・・すぐに体勢を整えて向かって欲しいとの事です」

「何だと!?」

大司祭の言葉にモーリスは声を荒げる。大司祭は怯む事なく話を続ける。

「本当は優希様がお供しないといけないらしいんですが、まだ、二つの珠が体に馴染まないから起きれないと・・・だから、代わりに行ってほしいとおっしゃってました」

「何故、優希はここに現れないのだ?」

クロードは大司祭に疑問をぶつけると、大司祭は気まずそうに答える。

「お二人が疲れているのに睡眠も食事も取らず、自分の事を看病していると怒ってました。それと、今は体を馴染ませているだけだから、心配するなと・・・お二人が心配しすぎて優希様のお声が届かないみたいです」

大司祭の言葉に2人は無言になる。

「あとですね・・・討伐に向かう前に食事をしてしっかり寝ろと・・・このままの状態で2人が倒れたら、誰が国を守るんだとかなりご立腹でした・・・」

「ふっ、あいつらしいな」

大司祭の言葉にモーリスから笑みが溢れる。クロードも釣られて微笑む。

「そうだな。自分は寝込んでるくせにいつも周りの心配ばかりする」

2人は優希へと視線を向ける。

するとどこからともなく風が吹き、2人の髪を揺らす。

「どうやら本気で怒ってるようだ。クロード、今日はこのまま食事をして寝るとしよう。会議は明朝だ」

「あぁ。ふっ、優希が頬を膨らませてる姿が目に浮かぶ」

クロードはメイドを呼び、今晩の看病を頼むとモーリスと共に部屋を出た。


その夜、何故か2人は同じ場所で正座をさせられ、優希に説教される夢を見る。

散々怒鳴った優希は、大きなため息をついて大きく手を伸ばし2人を抱きしめる。

「2人は俺の大切な家族です。無理はしないでください。俺が起きるまで、しっかり体を整えて、もう少しだけ頑張ってください。決して怪我などしないように充分気をつけてくださいね。起きたら、2人まとめて頭を撫でてあげます。それから、2人は間違っていません。俺は俺の意思で戻りました。犠牲になんかなってません。2人が・・・みんなが大好きなんです」

そう優しく囁くと、優希はクロードのおでこにキスをする。

「・・・・俺には無いのか?」

モーリスの言葉に優希は目を丸くする。

そして、クロードに視線をやれば、クロードは苦笑いをして目を閉じる。

「いつからモーリスさんは甘えん坊になったんですか?困った弟ちゃんだ」

そう言って、モーリスのおでこにもキスをした。

「肝心な所は聞いてなかったのか・・・」

モーリスはぶつぶつ呟きながら、優希を睨む。

優希は何の話ですか?と首をかしげるが、何でもないと言い返した。

「じゃあ、俺、また眠ります。あっ、そう言えば、俺って幽体離脱までできちゃって、神様みたいですよね?かっこいいでしょ?」

優希はニカっと笑い、姿を消した。その名残を見つめながら2人は声を出して笑った。

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