第57話 優希への想い
「どういう事だ!うまくいくはずでは無かったのか!」
ベットに横たわる優希の側でクロードが声を荒げる。
「落ち着け。手筈は上手く行ってたはずだ。それより、ウィル。この手際さはどういう事だ?まさか、優希はこうなる事がわかっていたのか?」
鋭い目でモーリスはウィルを睨む。ウィルは黙ったまま俯く。
「ウィル!説明してくれ!何を隠している!?」
クロードに詰め寄られ、観念したようにウィルは重い口を開く。
「優希様は体内に入れる事がとても危険な事だとわかっていました」
「何だと!?なぜ、それを言わなかった!?」
「クロード、落ち着け。まずは、ウィルの話を聞くんだ」
モーリスはウィルに詰め寄るクロードの肩を掴み、引き離す。
クロードは息を荒げながら、ぐっと拳を握る。
「すでに、神殿の玉珠を体内に入れた事で、優希様の体には痛みを伴う痺れが出ていました」
「何だと!?」
そう言葉にしながら、クロードはハッと気付く。
今日の優希は変だった。
やたらに甘えてたのは、自分で歩く事も、フォークを持つ事もできないでいたからなのか・・・その事実がクロードの胸を締め付ける。
「クロード王子やモーリス王子に相談するように促したんですが、優希様は今後起こる事にみな不安を感じているだろうから、余計な心配をかけたくないと。自分にしかできない、自分の役目だとおっしゃっていました」
「だが・・・」
悔しそうに呟くクロードに、ウィルは申し訳ございませんと謝る。
「万が一の為に対応できる様、準備しておくと伝えてあったので、こうして早急な対応ができました。クロード王子、モーリス王子、優希様はここでお二人と、そして私達とずっと笑顔で暮らしたいとおっしゃってました。だから、その為にやるのだと」
「・・・・」
「・・・・」
「優希様の決意を信じてあげてください。優希様はその願いを叶える為に、絶対死なないと誓ってくれました。今は出来る事をして、優希様を信じましょう」
ウィルの言葉に2人は横たわる優希に視線をやる。優希の周りには医者と代わるがわるメイド達が取り囲んでいた。
医者達が手当を済まし、症状に合う薬を調合してくると部屋を出る。
クロードはメイドもしばらく部屋を出るように促し、モーリスと2人だけ部屋に残る。
2人は優希の側に椅子を並べ、クロードは優希の手を取りポツリと呟く。
「モーリス、私達は間違えたのだろうか?優希を呼び戻してはいけなかったのか?」
クロードの問いに、モーリスは口を閉ざし、ただただ優希を見つめる。
「私はただ優希と幸せに暮らしたかっただけなのに・・・」
「・・・それは、こいつの望みでもあるだろ」
「だが、優希を犠牲にしてまでも叶えるべきだったのだろうか」
「お前もこいつもそれを望み、こいつが決めた結果だ。お前はこいつの側にいる事だけを考えろ」
ボソボソと会話をしながらも2人は優希から視線を外せずにいた。
しばらく沈黙が続いた後、クロードがまたポツリと呟く。
「・・・・モーリス、お前はそれでいいのか?」
「何の話だ?」
「優希を譲る気持ちはさらさらないが、お前が誰を想うかは自由だ」
「だから、何の話だと言っている」
「私にはわかるんだ。溢れ出る想いを器に留めて置けない気持ちが・・・」
「・・・例えそうだとしても、もう結果は見えているだろ。何の意味がある?」
「それでも伝えろ。選ぶのは優希だ。たまたま私が先に出会い、私の方が先に想いを伝えた。それに優希は時間をかけて受け入れてくれたが、もし、お前が私より先に想いを伝えていたら・・・」
「ありえん。先とか後とか関係ないだろ。受け止めると決めたのはこいつだ。その時点で結果は決まっている」
「それで、いいのか?今、優希が耐えて回復したとしても、この先に待ち構えている戦いはどうなるかわからない。それに、優希の性格だと、またこうして無理をするかも知れない。だからこそ、伝えれる時に伝えておくべきだ」
「・・・・」
「私はもうあの時みたいな思いはしたくない。全力で優希を守る。それはお前も同じだろう?あの時も今も・・・」
「・・・あぁ。俺もこいつを守る」
ポツリと呟いたモーリスの言葉を最後に、2人は黙ったまま優希を見つめた。
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