第56話 秘宝の力
仮眠したにも関わらず痺れが取れない優希は、クロードに悟られまいと甘え作戦に出る。
「クロードさん、ダイニングまで俺をおぶってください」
「きゅ、急にどうした?」
優希は少し甘えた声で、クロードの服の裾を引っ張る。
「忙しくなったら、いちゃいちゃできないと思って、今日から甘える事にしたんです」
「そ、そうか。だが、運ぶなら背中より横抱きの方がいいのでは?」
「前々から言おうと思ってたんですけど、俺、これでも立派な大人の男なんで、お姫様抱っこは恥ずかしいんです」
「お姫様抱っこ?」
「そうです。俺の世界では、横抱きするのは可愛い女の子にする行為なんです」
「そ、そうなのか?」
「だから、今日はとりあえず背中に乗せてください。他のやつは、背中の乗り心地で決めます」
「乗り心地・・・ちなみに、他のやつというのは?」
「いひっ、内緒です」
何かを企んでる様な笑みを浮かべる優希に、クロードは笑顔を引き攣らせるが、優希の言われるがまま背中におぶり、ダイニングへと向かった。
早々と夕食を終え部屋に戻ると、クロードは顔を赤めながらため息を吐く。
それと言うのも、痺れを誤魔化すためにクロードに食べさせてもらい、帰りは抱っこしてもらって部屋まで運んでもらったからだ。
「優希・・・これは何の罰なんだ?」
「えっ?俺の甘えは罰に感じるんですか?ひどい・・・」
「いや、そんな事は・・・」
慌てて言葉を返すクロードを遮るように、ドアをノックする音がした。
クロードは咳払いをして、入れっと声をかける。
開かれたドアからはモーリスを先頭に、ゾロゾロと護衛が入ってくる。
一気に重々しい空気が部屋に流れる。
そして、モーリスが目の前の長椅子に腰を下ろすと、持っていた箱をテーブルに置き、箱から何かを取り出す。
それは、王家の模様が描かれた透き通った青い球体だった。
「これが代々伝わる秘宝だ。この球体には王家の者にしか触れない結界が施してある」
「え?それじゃ、俺は触れないじゃないですか」
「それは問題ない。私とモーリスの力で結界を一時解いて、優希に託す手筈だ」
「そうですか・・・」
優希は禍々しいオーラを放つ球体を見つめながら、とんでもないものが来たと内心焦っていた。
「この球体には王族の魔力増加を促す力が込められている。それをお前の体に入れる時は負担にならない様に、吸収されていくタイミングを見計らって、俺とクロードで結果を張っていく」
モーリスの言葉に、更に焦りが出る。これは倒れる所じゃ無いかも・・・そう思いながら、部屋をキョロキョロと見回す。
部屋の端にウィルの姿を見つけると、目をパチパチさせながら合図を送る。
ウィルも心配そうな表情を浮かべながら、静かに頷く。
それを見た優希は、覚悟を決めた声でクロード達に始めましょうと伝える。
2人は頷き、モーリスは優希の隣へと移動する。
まず、クロードとモーリスが球体に触れ、呪文を唱える。
唱え終わるとすぐさま優希に球体を持たせ、今度は優希が目を閉じ、その球体を胸の所へと持っていく。
球体が体に触れた途端、優希の鼓動が大きく跳ねる。
みんなに聞こえるんじゃ無いかと思うくらいドクンドクンと音を立て脈を打つ。
体は熱く火照り、汗が滲み出す。
優希の体の中に入っていく瞬間に、両脇から手が伸び、球体に添えられ、また呪文を唱える。
激しい痛みが優希を襲い始めるが、必死に堪えて球体を体の中に押し込む。
半分くらい入った頃には、球体が自ら動いてすーっと優希の体に入っていく。
全部入った途端、優希の体がビクンッと跳ね上がる。
身体が燃える様に熱く、激痛が体をのたうち回る。
両サイドから優希の名を呼ぶ声がかすかに聞こえるが、激しい痛みに目の前がチカチカし始める。
耐えられない体の異変に優希は疼くまり、呻き声をあげた。
ウィルがすかさず、医者やメイド達を部屋に招き入れ、いろんな物が運び込まれる。
意識が遠のく間も、周りの声が聞こえるが、優希にはもう何を言っているのかわからない。
ぎゅっと目を閉じていてもチカチカしていた光が、やがて暗闇となり、優希の意識が途絶えた。
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